ポアロと同じ目線で幻惑されていく『名探偵ポアロ:ベネチアの亡霊』など、週末観るならこの3本!
MOVIE WALKER PRESSスタッフが、いま観てほしい映像作品3本を(独断と偏見で)紹介する連載企画「今週の☆☆☆」。今週は、アガサ・クリスティがだみ出した名探偵ポアロをケネス・ブラナーが実写映画化したシリーズ第3弾、過酷な夢に挑戦するトップゲームプレイヤーたちの挑戦を描いたアクション、夢が途絶えたバレリーナが新たなダンスとともに再出発を図るヒューマンドラマの、胸を躍らせる3本。
観る者を迷宮へと誘っていく…『名探偵ポアロ:ベネチアの亡霊』(公開中)
ケネス・ブラナーの監督/エルキュール・ポアロ役は、過去2作で独自のアレンジを加えつつ、犯人や殺人のトリックなど原作の基本は押さえられていた。しかしこの3作目は原作として使った「ハロウィーン・パーティ」が、アガサ・クリスティの中ではメジャーな作品ではないせいか、大胆に脚色。舞台をベネチアにしたことで運河や屋敷などが殺人事件の最適な“現場“となり、新たなミステリーとして観る者を迷宮へと誘っていく。
冒頭から、ある動物を使った不穏なシーンが繰りだされ、その後も要所でドッキリ描写を用意。スリラーとして怖がらせる演出は、前2作とまったく違う印象だ。ブラナー監督の前作『ベルファスト』(22)で、主人公の少年と父親を演じたジュード・ヒルとジェイミー・ドーナンが今回も父子役。息子のヒルの大人顔負けの名演技は、本作の絶妙なスパイスになっている。恐るべき天才子役!そしてオスカーを受賞したばかりのミシェル・ヨーが霊媒師役で放つ怪しすぎる香りには、ポアロと同じ目線で幻惑されるはず。(映画ライター・斉藤博昭)
事実は小説より奇なりを地でいく物語…『グランツーリスモ』(公開中)
ワールドワイドな人気を誇るプレイステーションの同名ゲームの映画化。「グランツーリスモ」に明け暮れる若者ヤンは、トッププレイヤーをプロレーサーに育てるGTアカデミーに挑戦する。本作がユニークなのは、ゲームの世界の映画化ではなく、日産とプレイステーションが実際に立ち上げたプロレーサー育成プログラム、GTアカデミーを題材にしていること。主人公はアカデミーでプロになった実在のレーサーであるヤン・マーデンボロー、オーランド・ブルームが演じた英国日産のマーケティング責任者も実在の人物で、つまり“実話の映画化”なのだ。実車を完全再現したドライビングシミュレーター「グランツーリスモ」の映画化としてベストのチョイスといえる。
しかも監督は『第9地区』(10)や『エリジウム』(13)、『チャッピー』(15)と秀作SFで知られるニール・ブロムカンプ!彼にとっては初の非SF映画だが、事実は小説より奇なりを地でいく物語が心に刺さったのだろう。波乱のドラマだけでなく、VFX畑出身で緻密なビジュアルで知られるブロムカンプらしいハイテンションなレースシーンにも注目だ。(映画ライター・神武団四郎)
最高にチャーミングな人間讃歌…『ダンサー イン Paris』(公開中)
長年のバレエ・ダンスファンとして知られ、パリ・オペラ座バレエ団のエトワールの素顔を追ったドキュメンタリー映画『オーレリ・デュポン 輝ける一瞬に』(10)も手がけたセドリック・クラピッシュ監督。いつかダンスを題材にしたフィクション映画を作りたい!と考えていた彼が、パリ・オペラ座の現役ダンサー、マリオン・バルボーを主演に抜擢し、感動と喜びにあふれる珠玉の再生ドラマを撮り上げた。
パリ・オペラ座で上演中に転倒し、足首を剥離骨折、医師から完治しない可能性もあると宣告されたエリーズ。ステージを離れ、出張料理のアシスタントのバイトを引き受けた彼女は、仕事先となるブルターニュのレジデンスでコンテンポラリーダンスのカンパニーと出会う。冒頭のクラシックバレエとラストのコンテンポラリーダンス、それぞれの圧倒的なステージのすばらしさはもちろん、本人役で出演する世界的振付師ホフェッシュ・シェクターの名言の数々、恋愛、友情、親子の共感度大の物語など、視覚的にも感情的にも全編に見どころが満載。ちりばめられた愛らしいユーモアのセンスもこの監督ならでは。挫折した人、困難に直面した人…人生に深い傷を負ったすべての人に前を向く勇気を与えてくれる、最高にチャーミングな人間讃歌だ。(映画ライター・石塚圭子)
映画を観たいけれど、どの作品を選べばいいかわからない…という人は、ぜひこのレビューを参考にお気に入りの1本を見つけてみて。
構成/サンクレイオ翼