想いを伝えるのは声だけじゃない!『コーダ あいのうた』『裸⾜になって』など“希望と再生の映画”4選
第72回カンヌ国際映画祭「ある視点」部⾨に出品された『パピチャ 未来へのランウェイ』(19)のムニア・メドゥール監督の最新作『裸⾜になって』が、7月21日(金)より公開される。本作では、ある⽇突然、⾝体の⾃由と声を失った主人公フーリア(リナ・クードリ)が再び⽣きる情熱を取り戻していく。本作をはじめ、ダンス、歌、ピアノなど、“声以外で気持ちを伝えること”の⼤切さを伝える映画をピックアップ。
抑圧された社会のなかで、生きる力を取り戻す『裸⾜になって』
『裸⾜になって』の舞台は、北アフリカのイスラム国家、アルジェリア。内戦の傷が癒えきらぬ不安定な社会で、バレエダンサーになることを夢⾒るフーリアは、貧しくもささやかな⽣活を送っていた。しかしある夜、⼤ケガを負い、踊ることも声を出すこともできなくなってしまう。すべてを失い、抜け殻となったフーリアだったが、リハビリ施設でそれぞれ⼼に傷を抱えたろう者の⼥性たちと出会い、ダンス教室でダンスを教えることに。それは⼿話をモチーフにしたコンテンポラリーダンスで、“踊ること”が彼⼥の新たな声となり、観る⼈に希望を与えていく。
アカデミー賞作品賞など3部門を受賞した『コーダ あいのうた』
両親と兄と共に家族で漁業を営みながら、海辺の街で暮らす⾼校⽣の少⼥ルビー。彼⼥は家族のなかで唯⼀⽿が聞こえる存在で、彼らの通訳としても日々あらゆる場所での⽣活を⽀えていた。やがて、合唱部に⼊部したルビーは、彼⼥の歌の才能に気づいた顧問の先⽣から、都会の有名⾳楽学校を受験するようにと進められるが、両親には歌声が聞こえず、その才能を信じてもらえない。ルビー(エミリア・ジョーンズ)は⾃分の夢を諦め、家族のサポートを続ける決意をするが、そこで⽿の聞こえないルビーの⽗親が、娘の歌声を感じるためにとった⽅法とは。
⾳楽は⽿で聴くだけのものではない、ということに気づかされる感動のヒューマンドラマ『コーダ あいのうた』は、第94回アカデミー賞で作品賞をはじめ主要3部門を受賞。本作でろう者の俳優として男性では史上初となる助演男優賞に輝いたトロイ・コッツァーは、『裸足になって』で製作総指揮を務めている。
『ピアノ・レッスン』ではホリー・ハンターが台詞のない役でアカデミー賞の主演⼥優賞を受賞
時代は19世紀の半ば。6歳の時から⼝がきけないエイダ(ホリー・ハンター)は娘のフローラ(アンナ・パキン)と、エイダにとっての“⾔葉”であるピアノと共に、「写真結婚」でスコットランドからニュージーランドへと嫁いでくる。しかし、夫からはピアノを浜辺に置き去りにされ、果ては現地の地主ベインズ(ハーヴェイ・カイテル)の⼟地と勝⼿に交換されてしまう。だが、ベインズから、ピアノのレッスンをしてくれればピアノを返すと言われたエイダは、渋々レッスンを始めるが、やがて2⼈の距離はしだいに縮まり、恋に落ちる。
声を発しない⼥性が、ピアノで⾔葉を表現することを通して、⼥性が⽣きていくことへの息苦しさや残酷さを映しだした『ピアノ・レッスン』。エイダ役のハンターは、セリフのない役でアカデミー賞の主演⼥優賞を受賞するという快挙を達成した。監督は『パワー・オブ・ザ・ドッグ』(21)で第94回アカデミー賞監督賞を受賞したジェーン・カンピオンで、本作にて第46回カンヌ国際映画祭で⼥性監督として初のパルム・ドールも受賞した。
リアルな体感型サウンドで表現された『サウンド・オブ・メタル〜聞こえるということ〜』
恋⼈と共にトレーラーでアメリカ各地を巡りながらツアーに奔⾛していた、ドラマーのルーベン(リズ・アーメッド)。突如、⽿がほとんど聞こえなくなり、医者からも回復の⾒込みがないと告げられるたルーベンは、恋⼈に連れられ、ろう者の⽀援コミュニティーで新たな⽣活を始める。そこで出会ったのは、⽿が聞こえないことを障がいと捉えず、⾃らの個性として⽣活する⼈たち。その暮らしは穏やかで、ひとときの安らぎを得ることはできたが、ルーベンはどうしても現実を受け⼊れられない。
聴こえるということは、一体どういうことなのかをそれぞれ観る⼈に委ねる『サウンド・オブ・メタル〜聞こえるということ〜』。静寂、⼿話、街のノイズや⾳の振動など、映画を観ている⼈もルーベンの聴覚と⼀体化するようなリアルな体感型サウンドも話題に。
音のない世界で希望を見出していく人々の生き様に心を揺さぶられる映画たち。これを機に、“想いを伝える”方法は言葉だけではないことを、考えるきっかけにしてみてほしい。
文/山崎伸子