古川琴音、PFFイベントで山中瑶子監督と明かす“原点”。満島ひかり『海辺の生と死』に「鳥肌が立った」

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古川琴音、PFFイベントで山中瑶子監督と明かす“原点”。満島ひかり『海辺の生と死』に「鳥肌が立った」

国立映画アーカイブで開催中の「第45回ぴあフィルムフェスティバル(PFF)2023」で9月9日、<山中瑶子監督『あみこ』への道>のトークイベントが行われ、山中監督と古川琴音が登壇。自身の原点や、映画作りの醍醐味について語り合った。

古川琴音は、山中瑶子監督について「大好きな監督」だと告白した
古川琴音は、山中瑶子監督について「大好きな監督」だと告白した

山中監督は、19歳から20歳にかけて自主制作した『あみこ』(17)がPFFアワード2017で観客賞を受賞、翌年には第68回ベルリン映画祭フォーラム部門に史上最年少で招待された新進気鋭の監督。今年のPFFでは<山中瑶子監督『あみこ』への道>と題して、山中監督が影響を受けた1970~80年代の映画をセレクトした特別プログラムが行われ、アレハンドロ・ホドロフスキー監督の『ホーリー・マウンテン』(73)、アンジェイ・ズラウスキー監督の『ポゼッション』(80)、そして山中監督の『あみこ』、2019年に放送されたドラマ「おやすみ、また向こう岸で」が上映された。

【写真を見る】PFFのトークショーで自身の原点を明かした古川琴音
【写真を見る】PFFのトークショーで自身の原点を明かした古川琴音

古川は、ドラマ「おやすみ、また向こう岸で」やオムニバス映画『21世紀の女の子』(19)の一編である「回転てん子とどりーむ母ちゃん」で山中監督とタッグを組んできた。山中監督は「古川さんと初めて出会ったのは、『あみこ』を作った翌年の2018年。古川さんもお芝居を始めたばかりだったんですよね」と回想すると、古川は「まだ事務所に入って1年経つか、経たないかくらい」と同調。同世代でキャリアスタートもほぼ同時期となる2人だが、山中監督は「古川さんは、立教大学の映像身体学科なんですよね。お芝居を始めようと思ったきっかけはどのようなものだったんですか」と質問した。

古川は「その学科に入ろうと思った理由は、人前に出たいという気持ちがあって、ほとんど将来のことを考えずに映像身体学科に入った」と切りだし、「英語劇のサークルに精を出していた」と述懐。「お恥ずかしい話、仕事を始めるまでほとんど映画を観ずに、サークルで舞台に立てているということが好きだった。就職活動のタイミングで『お芝居を仕事にしてみよう』と思った時に、私は舞台のお芝居しかしたことなかったので、映像のお芝居をやってみたいと思ったんです」と映像の芝居に興味を向けた時に、当時上映されていた満島ひかり主演の『海辺の生と死』(17)を鑑賞して衝撃を受けたという。「満島さんが裸になって身を清めるシーンがあって。月に照らされた顔がアップになるシーンで、きれいで鳥肌が立った。舞台はお客さんに想像してもらったり、自分も想像しながら演じるもの。映像ってちゃんとそれが残るんだなというのが、すごく新鮮だった。私もそのなかに入りたいと思った。ちょうどその映画の制作をしていたのが、いま入っているユマニテという事務所で『ここに入ろう』と応募しました」と原点を明かした。

<山中瑶子監督『あみこ』への道>のトークイベントに登壇した山中瑶子監督
<山中瑶子監督『あみこ』への道>のトークイベントに登壇した山中瑶子監督

一方、独学で『あみこ』を撮りあげた山中監督も、進路を決める際に、監督の道を歩むことを考え始めたという。「子どものころからなんとなく映画を観ていたけれど、背景に、人間の意識の集合体があるということはわかっていなかった。高校2年生の終わりくらいに『ホーリー・マウンテン』を観た時に、(映画作りの裏側には)撮影隊がいるということに気づいたんです。小学生のころに『ハリーポッター』とか観ている時も、カメラがあるとは考えていなかったし、なんならホグワーツも実在していると思っていた」と笑いながら、映画作りに力を注いでいる人たちの存在を「改めて認識できたのが『ホーリー・マウンテン』で、私も映画を作ろうと思った」と話す。「ちょっとわかる気がする」とうなずいた古川は、「お仕事を始めてから、カメラの裏にこんなにも人がいるんだと思った。それはある意味、舞台と一緒だなと思った時から、安心してお芝居ができるようになった」と続いた。

トークショーを行った古川琴音&山中瑶子監督
トークショーを行った古川琴音&山中瑶子監督

それぞれの道を邁進してきた2人だが、山中監督は「映画って、スタッフがたくさんいる。それがどんどん増えてきている」とキャリアを重ねるごとに、作品に携わる人数が増えてきていると告白した。少人数で取り組んでいる時に比べて、ビジョンの共有が難しくなる可能性もあるが、山中監督は「私は脚本を書く時に、無意識を頼りに書いているので、『このシーンの次に、なぜこのシーンがくるのか』などが説明ができない。そうすると自分ではわかっていないことを、スタッフの方が(脚本の構造的な)つながりを見つけてくれたりもする。一人でやっている時よりは、奥行きや多面的な視点が入ってきてくれる。ただみんなが『これはどういう意味なのか』と知りたがるんですが、言葉で『こういうことです』と言い切ることによって取りこぼすことも多いので、具体的には言わないようにしている」と難しさと喜び、その両方を味わっている様子。


「なるほど」と感銘を受けた様子の古川は、「監督から演出が入る時に、はっきりと言われるよりも、『監督の言っていることをわかりたい』という気持ちがある。『なにを言っているかわからないけれど、この人すら言葉にならないことを、私がわかりたい』と思っている時のほうが、自分のキャパシティを越えられる気がする」とコメント。山中監督が「なにを言っているかわからない演出をする人もいますか?私は結構そういうタイプ」と尋ねると、会場からも笑いが起きるなか、古川は「でもそのほうが、ちょっとゾクゾクする。例えば『腐ったいちじくみたいに熟れた感じで』と言われたら、みなさんどうしますか(笑)?ただそう言われたほうが、すごく楽しいですよね」と目尻を下げ、これには山中監督も「みんなが一緒になって考えるのが健全な場所だと思う。監督のことに、ただみんなが『はい』と言って、それをこなしていくというのはあまり楽しくないですよね」と心を寄せ合っていた。

柔らかな雰囲気を持ちながら、しっかりと芯を持った2人であることが伝わるトークとなったが、古川は「大好きな監督」とにっこり。「自分の力を自然と引きだしてくれる監督。この監督の考えていることってなんだろう、もっと知りたい、自分もその頭のなかの一部になりたいという気持ちを起こさせてくれる監督」と熱を込めると、山中監督は「本当ですか。よかったです」と照れ笑い。古川は「ついていきます」と再タッグを願っていた。

取材・文/成田おり枝

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