アルコ&ピース平子祐希、初の小説連載!「ピンキー☆キャッチ」第23回 シャンパン
MOVIE WALKER PRESSの公式YouTubeチャンネルで映画番組「酒と平和と映画談義」に出演中のお笑いコンビ「アルコ&ピース」。そのネタ担当平子祐希が、MOVIE WALKER PRESSにて自身初の小説「ピンキー☆キャッチ」を連載中。第23回はシャンパンの謎をついに解明!?
ピンキー☆キャッチ 第23回 シャンパン
「鈴香です」
「七海です」
「理乃です」
「私達三人合わせて『ピンキー☆キャッチ』です!」
十七歳の私達、実は誰も知らない、知られちゃいけないヒミツがあるの。それはね、、表向きは歌って踊れるアイドルグループ。
でも悪い奴らが現れたら、正義を守るアイドル戦隊『スター☆ピンキー』に大変身!
この星を征服しようと現れる、悪い宇宙人をみ~んなやっつけちゃうんだから!
マネージャーの都築さんは私達の頼れる長官!
今日も地球の平和を守る為、ピンキー☆クラッシュ!
都築はソファに倒れ込んだ。時刻は早朝の4時30分を回るところだ。つい先程まで、シャンパンの盗難届の全てをリストアップし直し、その被害をデータ化する作業に追われていたのだ。重量感のある作業に対して、シャンパンという軽いワードが『果たして本当にこれが国の防衛につながっているのだろうか』という疑問を抱かせた。都内各所で盗まれたシャンパンの総数は、ざっと10万本を超えていた。しかもこれはあくまで届出を出した被害の数であり、実際はもっと増えると思われる。小規模な酒屋は勿論、大手オンラインストアの倉庫からも数千本単位で消えていたのだ。
「地球外生命体が何故シャンパンを・・」
考えても答えの出ることのない違和感に頭を悩ませながら、都築は深い眠りに落ちていった。その日の午後、事務所にはピンキーのメンバーが顔を揃えた。ここまでの経緯を説明し終えた都築は、まだ残る眠気をかき消すようにこめかみを押さえた。
「ほんなら都築さん、私らが一生懸命戦ってたのは、あれ相手の時間稼ぎやったの?」
「いや、正確な因果関係はまだ分からない。しかしこれだけ大量のシャンパンが各所で盗難されて、しかも未解決というのは・・。文字通り人間業とは思えない」
「状況証拠は何も残されていないんですか?防犯カメラの映像も」
「その辺については部下が調べていたんだが、さっき連絡が入った。証拠は指紋一つなく、全てのカメラは妨害電波の類でやられていたらしい。一つ残らず全てのカメラがだ。その上で何百ケースという超重量物が短時間で消えた。我々の想像の範疇を超えている」
警視庁の捜査資料によると、防犯カメラは機器そのものが焼き切られ、データの復元も不可能との事だった。有人の店舗や倉庫でも目撃者の一人もおらず、状況から試算するに、ものの数秒で盗難されていた事が分かった。
「でもな、私不思議やねんけど。シャンパンなんて日本のものとちゃうやん」
「そうだよ、元々はフランスのでしょ?」
「なあ?だったらフランスでもアメリカでも、そっちのが大量にあるんちゃうの?」
「確かにね。日本なんか狙うよりも外国でいいじゃんね?イギリスだってロシアだってお酒飲む国民性のイメージあるし」
正論だ。シャンパンが欲しければ原産国のフランスを狙えばより量を稼げるだけでなく、製造のノウハウだって手に入るはずだ。これらの説は勿論防衛省でも議題に上がったが、これといった真相は導き出せなかった。
「・・・それはまあそうなんだけどな。現在調べられる範囲でチェックはしたんだが、他国で似たような事件の報告はされていないんだ」
各国に協力を仰ぎ、『シャンパンの盗難事件』に絞って被害状況を報告してもらった。しかし『酔客がシャンパンの瓶を~』『コソ泥が倉庫に忍び込んで~』など小物めいた報告が数件挙げられたのみであった。出口の無い異質さに全員が口をつぐむと、それまでソファの隅で大人しくしていた七海が突然「あっ」と声を上げ、全員の視線が一斉に集まった。
「都築さん、この考えが正しくなければ捜査を撹乱させてしまうだけだと思うんですけど・・・」
「大丈夫。今は思い浮かんだことは何でもいい、参考にさせてくれ」
「はい、じゃあ。・・・これ核じゃないですか?」
(つづく)
文/平子祐希
1978年生まれ、福島県出身。お笑いコンビ「アルコ&ピース」のネタ担当。相方は酒井健太。漫才とコントを偏りなく制作する実力派。TVのバラエティからラジオ、俳優、執筆業などマルチに活躍。MOVIE WALKER PRESS公式YouTubeチャンネルでは映画番組「酒と平和と映画談義」も連載中。著書に「今夜も嫁を口説こうか」(扶桑社刊)がある。