「女性がホームに飛び込んで…」高橋洋が明かす、日韓合作ホラー『オクス駅お化け』に至る道のり

インタビュー

「女性がホームに飛び込んで…」高橋洋が明かす、日韓合作ホラー『オクス駅お化け』に至る道のり

「日本語と韓国語の“お化け”に対するニュアンスの違いが、タイトルに活かされました」

――高橋さんが手掛けたシナリオを、白石晃士さんや韓国の作り手が構成し直す形で本作が作られたのですね。

高橋「ただ、全然変わっていると思っていたら、骨格はちゃんと残っていて。新宿駅で飛び込みを見たあと、一番列車恐怖症が酷かった頃って、電車に乗る時、車両とホームの隙間をつい見ちゃうんですよ。あの女が見上げてそうな気がして。そういう描写を僕のシナリオでは書いていたんですが、それも活かしてくれていました」

重層的に構築された高橋の脚本を、韓国のクリエイター陣がエンタテインメントとして映画化した
重層的に構築された高橋の脚本を、韓国のクリエイター陣がエンタテインメントとして映画化した[c]2023, MYSTERY PICTURES & ZOA FILMS, ALL RIGHTS RESERVED

――映画本編をご覧になって、高橋さんご自身の率直な感想としてはいかがでしたか?

高橋「自分の考えた複雑なストーリーが、いい意味でシンプルなエンタテインメントになっていましたね。僕が考えた日本の事件を基にしたホラー的な想像力と、韓国の作り手の想像力がマッチングしたことで、いままで見たことがないようなものが生まれていて、手応えがありました。こういうコラボレーションの流れが今後も続いてくれればいいなと思いましたね」

イ・ウンギョン(プロデューサー)「私たちが初めて高橋さんの脚本を読んだ時に『怖い!』と思った骨格は残して欲しいと、韓国側の作り手にもお願いしました。韓国で公開した時も、韓国の若者たちは『リング』の高橋さんの脚本だ!とすごく反応してくれていました。韓国では『オクス駅』という実在の駅を舞台にしたウェブトゥーンが原作という点と、高橋さんが脚本である、という点、この2つがウリだったのですが、おかげさまで韓国国内でもヒットしました」

プロデューサーのイ・ウンギョンは、韓国でいまなお『リング』の影響力が高いことを明かした
プロデューサーのイ・ウンギョンは、韓国でいまなお『リング』の影響力が高いことを明かした

――韓国でも『リング』の高橋洋だ、とお客さんが来るというのは凄いですね。今作はタイトルもキャッチーですよね。

高橋「あえて原題の“鬼神”を直訳してるんですよね。韓国では幽霊のことを“お化け”というニュアンスの“鬼神”って呼ぶのが一般的らしいんですよ。“幽霊”(ユリョン)という言い方もあるんだけど、“鬼神”の方がポピュラーで。日本語だと幽霊のことは、“お化け”じゃなく“幽霊”って言いますよね。“お化け”はどちらかというと可愛いニュアンス。そういう語感が日本語と韓国語で少し違うのが反映された、おもしろいタイトルだと思います」

「社会とリンクした、アクチュアルな表現を模索していきたい」

【写真を見る】決して足元を見てはいけない、韓国都市伝説の“お化け”は閲覧注意!目が合ってしまうと…
【写真を見る】決して足元を見てはいけない、韓国都市伝説の“お化け”は閲覧注意!目が合ってしまうと…[c]2023, MYSTERY PICTURES & ZOA FILMS, ALL RIGHTS RESERVED

――ここ数年、日本はホラーブームと言われるようになっていますが、高橋さんがJホラーを手掛けられていた時期のホラーブームといまのホラーブームに違いはあるのでしょうか。

高橋「かつてのJホラーブームは1990年代後半でしたよね。2020年に僕が脚本を手掛けたNetflixオリジナルシリーズ『呪怨:呪いの家』も、昭和の終わりから平成初期の90年代後半にかけてちょっと異様だった時代の空気を取り入れて作りました。いまも戦争があったりと不安なことは世の中にたくさんあるんですが、90年代のオウム真理教事件のような、いまの社会の不安を象徴するものはこれだ、という具体的な要素が見えづらいと思います。そういう意味で、ホラーとして形にしていく時に、アクチュアルなものとどう結びついていくのかが描きづらい時代だと感じています」

「第2回日本ホラー映画大賞」で大賞を受賞した、『ミッシング・チャイルド・ビデオテープ』
「第2回日本ホラー映画大賞」で大賞を受賞した、『ミッシング・チャイルド・ビデオテープ』


――高橋さんご自身は、今後作っていく作品はどのようなものを目指していますか?

高橋「いま脚本を準備しているのは『夜は千の眼を持つ』という、僕の8ミリ時代の映画をリメイクする…また人を不安にさせる企画なんですけど(笑)。フリッツ・ラング監督が1933年に撮った『マブゼ博士の遺言』というドイツ映画で描かれた、得体の知れない悪が人間の心を支配してゆく世界観をベースにしています。そのままやると昔ながらのスパイ活劇みたいになりかねないんですが、現代に置き換えることで自ずとJホラー的な、幽霊的な物語になっていくかなと。ラングがすごいのは、時代ごとの、例えばナチスが台頭する前の不安な空気を描いていることだと感じるので、そういうアクチュアルな表現を模索していきたいと思います。なかなか難しい題材ですが、エンタメに持っていきたいですね。シンプルな太い骨格のあるものにしばらく拘っていきたいと、『オクス駅お化け』の経験を通じて思っています」

『オクス駅お化け』は公開中
『オクス駅お化け』は公開中[c]2023, MYSTERY PICTURES & ZOA FILMS, ALL RIGHTS RESERVED

取材・文/近藤 亮太

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