山崎貴監督が『ザ・クリエイター/創造者』に唸った!「ゴジラ」の“先輩”監督の手腕も称賛「ジェームズ・キャメロンに近いものを感じる」
「AIはあくまで分断する現代社会のメタファーではないか」
主人公のジョシュアは核爆発で家族を失い、さらにニューアジアでのミッション中に結ばれた妻マヤ(ジェンマ・チャン)が空爆にさらされるのを目の当たりにし、生きる気力を失っている。アルフィーに対して、感情を持たない機械と蔑んでいたジョシュアだが、彼女が感情を表すことを知り、しだいに態度を変えていく。疑似家族のような関係を築く2人について山崎監督は「昔からあるタイプの物語と、このシチュエーションでしか描けない新しい物語をきれいに融合させたところがすごい」と称え、現代的なテーマも感じたという。「人のアイデンティティはどこにあるのか、というお話です。肉体なのか、感情なのか、それとも記憶の中にあるものなのか。テクノロジーの進化によって、これから人類が直面するかもしれないテーマですね」。
物語はAIを軸に展開していくが、「AIはあくまで分断する現代社会のメタファーではないか」と山崎監督は分析する。「AIをひとつの種として描いているので、対立や分断が続くいまの世界を寓話にしたのでしょう」と推察し、それもSFならではの魅力だという。「世界各地で起きている争いをそのまま描くのではなく、AIというフィルターを使って語っています。リアルな問題を浸透しやすいフィクションのステージを使って表現する、もともとSFはそういう寓話としての役割も持っているんです」。
そんな本作のアクション見せ場が人類とAIの戦闘シーン。ノマドや戦闘ヘリ、巨大装甲車で容赦なく攻める人類と、銃や爆弾など小型の武器を使ったゲリラ戦で応戦するAIの戦いにも現代の戦争が反映されている。「片方は攻撃の手が及ばない安全な場所からゲームをするように攻撃し、もう片方は最前線で命懸けの戦いを強いられる。すごくバランスの悪い戦いは、ドローンを使ったアメリカの戦争を皮肉っているように思えました」とイギリス人であるギャレス監督らしい表現に感心したという。
主人公のジョシュアを演じているのがジョン・デヴィッド・ワシントンだ。オスカー俳優デンゼル・ワシントンを父に持つ彼は、2020年にクリストファー・ノーラン監督の超大作『TENET テネット』の主演に抜擢されて注目を浴び、デヴィッド・O・ラッセル監督の『アムステルダム』(22)ではクリスチャン・ベール、マーゴット・ロビーと共にメインキャストを務めた実力派だ。山崎監督はジョン・デヴィッド・ワシントンのナチュラルな演技を絶賛する。「悩みを抱えた役ですが、時々挿入される回想シーンのナチュラルな笑顔が苦悩する姿をすごく活かしていましたね」と言い、ワシントンの佇まいが作品を盛り上げたという。「わかりやすい“スターっぽさ”がなく、品格があるので映画に真実味を与えるんです。渡辺謙さんも同様で、ノーランが彼らを好きなのはよくわかります。妻マヤを演じたジェンマ・チャンも、本当に存在するような“らしさ”がよかったです」。
本作でもう一人注目したいのが、アルフィーを演じた子役マデリン・ユナ・ヴォイルズだ。ドイツ系の血を引く父と東南アジア系の血を引く母の間に生まれた彼女は、演技初挑戦とは思えない存在感でワシントンと渡り合った。「表情で語るタイプではないと思っていたら、すごく豊かな表現を見せてくれて。終盤には『レオン』を思わせる見せ場もあって、心を持っていかれました」と称えた。