落合モトキが語る、あのが歌い上げた『鯨の骨』主題歌「どんな角度で作品を捉えていたら、この言葉が出てくるのだろう」
「AR(拡張現実)」を題材にリアルとバーチャルが混濁する世界で、ARアプリのカリスマ少女にのめり込んでいく男を描いたミステリー『鯨の骨』が現在公開中だ。監督を務めたのは、濱口竜介監督と共同執筆した『ドライブ・マイ・カー』(21)が第94回アカデミー賞脚色賞にノミネートされ、ディズニープラスで配信されたドラマ「ガンニバル」の脚本も手がけた大江崇允。今回MOVIE WALKER PRESSでは、本作で無気力かつナイーブな不眠症のサラリーマンの間宮を演じた落合モトキにインタビューを敢行。印象的に描かれるARアプリの世界や、大江監督がこだわり抜いた撮影について、共にW主演を務めたあのの魅力を語ってくれた。
「長い時間一緒に過ごしたことで、あのちゃんと二人でわかり合っている行間の部分を自然に表現できたのかな」
主人公は結婚間近だった恋人と破局した間宮(落合)。マッチングアプリで知り合った女子高生(あの)と会うが、間宮のアパートで女子高生が自殺してしまう。山のなかへ埋めようとするも、気がつくと死体は消えてしまっていた。ある日、スマホのカメラで撮影した動画を撮影場所に残すことができるARアプリ「王様の耳はロバの耳(通称ミミ)」の中で、消えた女子高生とそっくりの少女、明日香(あの)を発見する。明日香は街中で動画を投稿しており、ファンたちが動画目当てに街を徘徊するほどのカリスマ的存在だった。間宮は「ミミ」を通じて明日香の痕跡を追いかけるが、次第に現実と幻想の境界が曖昧になっていく…。
本作は撮影前に落合とあの、大江監督の3人で一週間、台本に向き合う時間が設けられたという。これまで数々の作品に参加してきた落合だが、オーディションから撮影まで長い期間がある作品を除いて初めての経験だったそう。「この本読みの時間はすごく大事だと、撮影している時も、作品が出来上がってからも強く思いました」と笑顔を見せる。「監督からは、無感情に文字だけ読む時間を何日間か作りたいと言われました。なので、事前に台本を読んで取り込んでいた間宮のイメージを、一度まっさらにして望みました。監督にたくさん疑問をぶつけて解決できたことがすごく大きかったし、あのちゃんとも長い時間一緒に過ごしたことで、プライベートの顔も見えてきたし、二人でわかり合っている行間の部分などを自然に表現できたのかなと思っています」と振り返る。
ARアプリ「ミミ」が織りなす物語について、世界観が“現実的”だと感じたそう。「以前だったら『こんな世界来るわけない』と思うかもしれないけれど、いまではSNSは当たり前に使っているし、『ポケモン GO』なども身近にあるので、ここまで人が狂わされるアプリも、今後出てきたりするのかな?みたいなことは考えました。実際に『ミミ』のようなアプリがあったら、僕はドラマや映画のロケ地を巡るのが好きなので、もしかしたら間宮みたいにどハマりしてしまうかも…とも思いました。それと同時に、表現したくなっていくと思うので、明日香側にもなりたいという気持ちもありますね」と、自身だったらどう向き合うのかを考えたという。
そしてARアプリにハマってしまった間宮のように、「ラジオ」にのめり込んでいると笑顔で明かす。「一人のパーソナリティをチェックして聴いていたはずなのに、気づけばすごい数の番組数を追っていて。公開収録も行くし、ファンが集まるイベントにも一人で参戦しています。いまは空気階段さんとかアルコ&ピースの酒井(健太)さんの番組にハマっていますね。自分では、間宮ほどの信者レベルじゃないし、『ミミ』に集まる群れをなす信者とも違う、と思っていますが(笑)」とハマっているものを解説。「でも僕は、本当に好きな人には恐れ多くて会いたくないんですよ。本当の僕を知って嫌われたくないという気持ちもあって。『ミミ』は好きな人を一方的に追えるから、都合のいいアプリだなと思います」と、作品のテーマにも通じる持論を展開した。