落合モトキが語る、あのが歌い上げた『鯨の骨』主題歌「どんな角度で作品を捉えていたら、この言葉が出てくるのだろう」
「監督の人徳もあってみんながその考えに寄っていく。僕もそのなかの一人でした」
本作の物語はほとんどが夜に進行し、その描き方が印象的だ。大江監督は「都会の夜は深海に似ている」というフレーズが本作の発端になったとコメントしているが、一方で落合はこの「都会の夜」を、「のびのび生活ができる時間帯」と捉えているのだという。「ちょっと自分を大きく見せられるような気がするし。日中はいかに細々と生きるかみたいな感じで歩く道も、夜だったら歩道の真ん中を歩けるような気分になる。『包み隠さずでいい!』みたいな感覚に夜の街はさせてくれます」。
そんな落合が、大江監督のこだわりぬいた撮影で特に印象に残ったのは、冒頭の山の中を徘徊するシーンとエンドロールだと明かす。「監督はずっと『深海のように、象徴的な映像にしたい』と話していて、山のなかをウロウロするシーンは、探査艇のライトのようなイメージにしたかったそうです。撮影中にやたらと『懐中電灯を振ってくれ』と言われたので、ブンブン振り回しました(笑)。スタッフ全員でベビーパウダーを撒いて、深海の泡っぽく見せるなど、みんなでいろいろと工夫をしています。ラストカットは探査艇の窓の外から見える魚の群れを表現していて、そのまま流れるエンドロールは、監督が最初から『こうやって撮る!』と固く決めていたポイントでした。照明もすごくこだわっていたし、監督の人徳もあってみんながその考えに寄っていく。僕もそのなかの一人でした」と、撮影の充実感を漂わせていた。
このエンドロールで流れるのは、あのがアーティスト「ano」として歌い上げる主題歌「鯨の骨」。あのが作詞作曲も手掛けているこの曲を聞いた際に、「どんな角度で作品を捉えていたら、この言葉が出てくるのだろう」と驚いたという。「雨のシーンはないのに、『傘』という単語を使うとか、あのちゃんなりにいろいろと色付けて書いてくれたとてもすてきな歌詞でした。あのちゃんは、喋ってみると年相応の普通の女の子という感じなのですが、思ったことはちゃんと言葉にする人で、それがこの繊細な歌詞からも伝わってきました。この曲が流れたり、あのちゃんがライブで歌ってくれたりした時に、この映画のことを思い出してくれるお客さんが何人かいたらうれしいなと思います」と、あのの魅力と共に想いを語る。
そして、このインタビューの数日前に主題歌が使用された本作の予告を偶然見かけたと続ける落合。「『なんかおもしろそうな映画。観てみたい』って思っちゃいました(笑)。自分が出ているのをすっかり忘れてそんな風に感じられるのって、ちょっといいですよね」と、演じるだけでなく観る側としても、すっかり本作に魅了されていた。
取材・文/タナカシノブ