「葬送のフリーレン」作曲家・Evan Callが明かす“物語に寄り添う”音楽世界「どこか懐かしいと思えるように」
勇者とそのパーティによって魔王が倒された“その後”の世界を舞台に、1000年以上生きる魔法使いのフリーレンの旅路が描かれる「葬送のフリーレン」。原作は2020年から「週刊少年サンデー」で連載がスタートし、コミックスの累計発行部数は1100万部を突破している。
そして待望のテレビアニメ化された本作は、初回2時間スペシャルが「金曜ロードショー」で異例の放送以降、毎週金曜23時に同局の新アニメ枠「FRIDAY ANIME NIGHT(フラアニ)」で放送され盛り上がりを見せている。今回MOVIE WALKER PRESSでは、本作の音楽を手掛けた作曲家のEvan Callにインタビューを敢行。「ヴァイオレット・エヴァーガーデン」やNHKの大河ドラマ「鎌倉殿の13人」も手掛けているEvan Callが、本作の劇伴に込めた想いや日本のアニメーションとの出会い、来日から10年以上を経ての自身のキャリアについて語ってもらった。
「アニメ音楽ではあまり使われない楽器の音色に注目してほしいです」
勇者ヒンメルたちと共に10年に及ぶ冒険の末、魔王を打ち倒し、世界に平和をもたらした魔法使いフリーレン。1000年以上生きるエルフである彼女は、ヒンメルたちと再会の約束をし、一人旅に出る。それから50年後、フリーレンはヒンメルのもとを訪ねるが、50年前と変わらぬ彼女に対し、ヒンメルは老い、人生は残りわずかだった。やがてヒンメルの死を目の当たりにしたフリーレンは、これまで人間を知ろうとしてこなかった自分を痛感し、“人を知る”ための旅に出ることに。
音楽を手掛けることが決まったEvan Callは、まず原作を読み込むことから始め、「すごく詩的な物語」だと感じたという。「これまで私が出会ってきた物語の多くは、様々な波を経て、最後の最後に感動が待ち受けているものが多かった。でも『葬送のフリーレン』は序盤からヒンメルとのエピソードのようにフリーレンにとってターニングポイントとなる瞬間があり、感動が生まれる。これはものすごくいい物語になると思って、読み進める手が止まらなくなりました。そして頭のなかではずっと音楽はどういうものにしようか、どんな編成で、どんな楽器で、そしてどんな空間を作っていくか考えていました」と、劇伴制作のスタートラインを振り返る。
「葬送のフリーレン」は、原作の時点で、序盤から時間の流れが早く、台詞を用いることなく登場人物の感情を表現するコマが多いのが特徴的。Evan Callは、「フリーレンとほかの登場人物たちとの関係が大事にされている作品で、時間の流れも大きなポイントでした」と、作品への理解に重きを置きながら楽曲制作を進めたと語る。「人間を知る過程で、フリーレンが過去を振り返り、生前のヒンメルから言われたことを理解し、納得していくことが多い。だから音楽でも、過去を振り返るような気持ちを感じてもらいたかった。そこでメロディラインや編成を、ノスタルジックでどこか懐かしいと思えるようなものにしていこうと考えました」。
そして、「あくまでも『葬送のフリーレン』のための音楽であることを意識し、この物語にふさわしい空間をつくりあげることを大事にしました」と強調する。「オーケストラをメインで使っていますが、民族楽器や古楽器など、アニメの音楽ではあまり聴いたことのないような楽器の音色にも注目してほしいです。僕自身、子どものころからケルトの音楽や北欧の音楽などの民族音楽が好きだったので、そこから無意識的に影響を受けた部分もあるかもしません。きっと懐かしさと同時に新しさも感じていただけると思います」とアピール。
本作では、第1話から第4話までは、“フィルムスコアリング”という劇伴の付け方を採用しており、完成したアニメーションに必要な作曲を行っている。「映像があるからこそ、限られているなりの自由度があります。それは編集されない前提で音楽を作れるということで、細かいところまでやりたい方向で実現できるのです。もちろんその分、責任は大きくなりますが(笑)」。第5話以降は画を見ずに作曲をした劇伴から、編集の際に選択をして作品に組み込まれていく“メニュー式”が取られている。その違いに注目して観ることも、本作の音楽世界がさらに味わい深いものになるだろう。
メインテーマを除いて、劇伴の制作にかかった期間はおよそ3か月。「ほとんどの作品の劇伴は、長い期間をかけて作っていくものですので、後から聴いてみたらこうすれば良かったと思うことはよくあって、正直やり始めたらキリがないと思います」と、テレビアニメの劇伴をつくることならではの苦労を吐露する。
「もう10年くらいこの仕事をやっていますが、キャリアが長くなればなるほど気を付けるポイントは増えていきます。以前こういうことがあったから、ここを意識しようとか、なにか後悔することがないようにと。サウンドトラックが商品として出てしまうと,
もうなにもできなくなってしまいますが、それまで時間があれば、気になるところに微調整を加えていきます。演奏自体は変えられないので、ミックスのバランスを整えたり、ベストな状態に近づけることを心掛けています」。