「葬送のフリーレン」作曲家・Evan Callが明かす“物語に寄り添う”音楽世界「どこか懐かしいと思えるように」
「若い作曲家たちにチャンスがあると聞いて来日を決意しました」
本作以外にも、「ヴァイオレット・エヴァーガーデン」など多くのテレビアニメや劇場アニメで音楽を手掛け、NHKの大河ドラマ「鎌倉殿の13人」の音楽も担当しているEvan Callは、「本当に大変でしたが楽しい10年でした」と怒涛のキャリアを振り返る。2012年に来日を果たしたEvan Callは、アメリカのマサチューセッツ州にあるバークリー音楽大学映画音楽作曲科の卒業生。その多くがハリウッドを志すなかで、なぜは日本のアニメ界へ挑んだ理由は、「やはりアニメもゲームも日本のものが好きだったことが大きかったと思います」と目を輝かせながら答える。
「ハリウッドでは、どれほどすごい人でもなかなかチャンスを得られない。けれど日本では、アニメ一つ取っても、劇伴だけでなくキャラクターソングなど音楽が必要な業界がたくさんあったり、コンテンツの数がとにかく多い。日本の友人からたくさんの若い作曲家たちにチャンスがあると聞いて来日を決意しました」。
生粋のアニメファンであるEvan Callは、幼少期から様々な日本のアニメ作品に触れてきている。「初めて観たのはおそらく『ポケットモンスター』や『デジモンアドベンチャー』だったと思いますが、その当時はそれが日本のアニメだと知らずに観ていました。アメリカにも“カートゥーン”と呼ばれるアニメはありますが、コメディだったり子ども向けのものばかり。でもある時、友人の家で『SAMURAI 7』を観て、アニメにはこういう表現もできるのだと、無限の可能性を感じました」。
そして次第に日本のアニメ作品の音楽に魅了されていったEvan Callは、「当時はまだ音楽をやっていなかったのですが、日本のアニメをたくさん観ていくなかで、アメリカの作品にはないような音の使い方や楽器の混ぜ方がおもしろいと感じるようになりました」と、作曲を始めた経緯を明かす。「アメリカでは作品の雰囲気が大事にされるのに対して、日本ではメロディーもとても大切にされている。それが響いたのです。実際に日本に来てみたら、電子レンジでもなんでも、あちこちでメロディーが流れていますしね(笑)」。
そんなEvan Callは来日後、シェアハウスのルームメイトに誘われてアニメファンが集うパーティに参加し、そこで得た人脈を辿ってアニメ界へと果敢にも飛び込んでいく。初めはアシスタントとしてスタートし、瞬く間に頭角をあらわしていった。そこでの音楽制作で心がけていたことは、「音楽によって、作品がより良いものになること」だという。「なんとなく雰囲気が合っているだけの曲を作ることもできますが、それではダメなんです。絶対にこの音楽でないといけない。そう言えるものを常に目指しながら音楽を作っています」。
最後に作曲家としての展望を訊ねてみると、「アニメではすでにいろんなジャンルをやらせてもらっているので、それを継続していきたいです。それにまたいつか大河ドラマをやりたいし、NHKの朝ドラや映画やゲーム音楽にも挑戦したいです」と声を弾ませる。「でも一番は、作品を理想の形で仕上げたいという情熱を持ち、長く残るものにしようとしている人たちと仕事をすることです。今回の『葬送のフリーレン』でも、アニメの域を超えてアートを作っているような心意気を実感できる経験でした」。
取材・文/久保田 和馬