舞台『弱虫ペダル』が汗とハンドルでつないできた”継承”。西田シャトナー×鯨井康介のスペシャル対談が実現!
「セリフが全部生なんですよね。マイクを使ってはいるけど、生の喉の振動が届くように声を張ってる」(西田)
――鯨井さんに質問ですが、前回の「舞台『弱虫ペダル』THE DAY 1」を演出した時のことをお聞かせください。
鯨井「一番最初に演出させていただいた作品が舞台『弱虫ペダル』The Cadence!で、『THE DAY 1』が自分としては2作目。キャストもほぼ続投で、共通認識が持てたことで、稽古場での作業の速度を上げることが出来て、次に行けるねという一歩フェーズが進んだ感じはありました。僕が今回意識していたのは“原作踏襲”。原作にある躍動感や構図をどれだけ自分がプランの中にしっかりと組み込み、それをベースに作っていけるかなと。舞台『弱虫ペダル』The Cadence!の時はそれが僕の中で足りなくて、自分が作りやすい流れを選択していたところがありました。今回は少し無理してでも、原作に対して忠実に作っていきたいという想いが強くありました」
西田「理想を求める気持ちがもっと強くなった?」
鯨井「そこに少し入っていけたかなと。前回よりもやれたことは多かったなと感じています」
――今回、「EPAD Re LIVE THEATER in Tokyo」では舞台『弱虫ペダル』を含む演劇・バレエ作品が8作品上映されます。
西田「僕はすばらしいものを作ったと自負してますし、信じてやってきてよかったと思ってます。なおかつ、それを鯨井さんに継承したうえで舞台『弱虫ペダル』が選ばれてるっていうことに、すごく誇りを感じました。これを選ぶようだったら、演劇の未来あるなと(笑)。(作中では)まだ1回も回想シーンとかでも録音音声使ってへんもんね?」
鯨井「使うつもりもないです」
西田「セリフが全部生なんですよね。マイクを使ってはいるけど、生の喉の振動が届くように声を張ってる。そういうところもぜひ見ていただければうれしいなと思います」
――舞台『弱虫ペダル』の表現を知っていただくというのは、映像ではありますが、非常に大きな価値があると思います。
鯨井「(映像の良さを)わかりやすいところで言うと、平面で距離があるものが、より近くで表情が見れるっていうところ。僕は演出の際、『カメラのその先に』、つまり全部に届くようにという意識を持ってほしいといつも伝えています」
西田「映像について僕が一つ思うことは、『現段階でその映像が演劇としてどういう意味を持ってるのか』ということについては答えが出てない時代だということ。その意義は未来の人が答えを出すことであって、とにかくいまは記録を残すことが重要だと感じています。映像を楽しみに来てほしいのはもちろんですけども、基礎研究の段階を、みんなで共有していきましょうっていう考えでいいような気はします」
「映像特有の良さとしては、本当の汗をかいていることを感じられること」(鯨井)
――昔はなにも残らなかったですもんね。
西田「残ってなかったことによって演劇が豊かになった部分はあるんですけどね。残ることによって失われるものもあるので、注意深くしなきゃいけない。いずれ芸術に対する考察が成熟していった暁には、録画された芸術の良さを考える日が来るでしょうけど。いまの僕らは未熟すぎて、“8Kで撮ったからいいよ”っていうのは、ちょっと違うだろうと。8Kで撮った良い資料が残った、というところで結論を出したらしくじるよっていうふうに考えておかないといけないなと僕は思います」
鯨井「演劇ファンだった僕にとって、映像は“生で観たかった”って思わされるものでもあったし、仲間内に『こういうの観たんだぜ!DVDまで買っちゃったよ、これ観て』っていう宣伝のツールでもあったりして。パッケージ(映像)は、舞台でこれを観たかったな、今度こそ行くんだっていう原動力にもなりますね」
西田「(生で)観たかったなっていう気持ちが芽生えるのがいいのか、(もうこれで)観れたわって思うのがいいのかというのを、ちょっと考えないといけないよね。『観たかった』っていうほうが将来的にはいいのかも」
鯨井「それはあるかもしれないですね。まったくその作品を知らない人が観たら、映像を答えとしてたどり着いてしまうこともあるだろうなと思いつつ、家で綺麗な映像で観たい人もいると思うし、本当にそれぞれだと思います。思い出補正や、一度きりで観た舞台を何回も思い出せるツールなど、二次的な楽しみ方ができるものでもある。それがより綺麗になって8Kにたどり着いて、よりリアルに近づいたっていうのは、すごく素敵なことだと思います。もちろん生で観る感動はありますが、より良いかたちになったもので、自分が作ったものを感じていただける機会があるのは、すごくうれしい。
映像特有の良さとしては、本当の汗をかいていることを感じられること。これは初演の時に(小野田坂道役の)村井良大くんが言った言葉らしいのですが、『涙は芝居で流しても、汗だけは芝居では流せない』と。舞台『弱虫ペダル』では、若手俳優が、がむしゃらに頑張れるのは大きな武器ですよね。若くてあまり武器がないからこその戦い方は、確実にある。『ペダステ』はそれがまっすぐ表現できる場なので、その汗や苦しい表情、役者としてなにかを超えてる瞬間をより近くで観ていただける、その点ではすごく素敵だと思います」