舞台『弱虫ペダル』が汗とハンドルでつないできた”継承”。西田シャトナー×鯨井康介のスペシャル対談が実現!

インタビュー

舞台『弱虫ペダル』が汗とハンドルでつないできた”継承”。西田シャトナー×鯨井康介のスペシャル対談が実現!

「未来の人に伝わるし、これで何十年か作品の寿命が延びたと思う」(西田)

――映像によって、作品を知ってもらえる機会が増えますよね。

鯨井「未だに『舞台のチケットってどうやって買うの?』って聞かれることもあり、実際そういう方はまだまだ多いと思うんです。映像になったら、単純に場所とか料金においてもハードルが低くなると思いますし。でも僕らからしたら、劇場に来る入口になってください、という想いが強いですね。映像がきっかけになったらいいなと思います」

西田「ハードルという言葉でいうと、ちょっと目線が変わるかもしれないけど、僕はどんなにハードルが高くても観に行きたくなるほどおもしろい芝居を目指すべきだと思っています。もちろん制作の方々には『ハードルを下げてあげて』って言うけど、僕らがやるべきことは、たとえ場所とか料金とか公演日数とかのハードルが高かったとしても、見に行きたいと思われるものを作ること。その気持ちがおもしろいものを作ってきたことも事実だと思います。でも、その舞台を映像で残しておくことは、いつか将来『なんか過去にすごい芝居があったらしい』ということを聞きつけた人が、なんか資料ないのかって探したら『あるじゃないここに!』って見つかる時のために残しておくのは、めちゃくちゃ意義があることだと思います」

鯨井「それに関しては、僕も同じ気持ちです。自分がやることとしては、良い作品を作ることに終始しています」

西田「映像が残ってよかったよね、本当に。未来の人に伝わるし、これで何十年か作品の寿命が延びたと思う」

撮影/興梠真穂

――舞台『弱虫ペダル』のエピソードについてもお聞きしたいです。

西田「演者さんは、この芝居は(体力的に)しんどいって言うじゃない。『いまこんなしんどいのに、ここでセリフ言わないといけないのか』とか『こんなしんどかったら普通は休んで水飲もうとするのに、まだ登るの?』みたいなことをリアルタイムでやることが、事前の稽古を忘れさせて、まさに”いま”の気持ちを引き出すっていう効果があるので(笑)。しんどいほどいいものにはなるなと。不可能なほどにしんどすぎたらダメですけど」

鯨井「その部分を、西田さんが本当によく考えてくださってたのは大きいです。まず最初はMAXでプランを作っていただいて、その後必ず僕らに相談してくださるので、どこまでがパフォーマンスとしての限界か、そのラインを共有したうえで稽古を進められる」

舞台『弱虫ペダル』新インターハイ編~スタートライン~
舞台『弱虫ペダル』新インターハイ編~スタートライン~[c]渡辺航(週刊少年チャンピオン)/弱虫ペダル03製作委員会[c]渡辺航(週刊少年チャンピオン)/マーベラス、東宝、トムス・エンタテインメント

西田「稽古場で芝居を作ってると『キャプテンが行こうって言ったらどれほどしんどくても行こう』って気持ちになったり、『キャプテン!』と呼んでるうちに本当にその人をキャプテンとして尊敬してしまって、『キャプテンが脚を止めないならオレたちも止めない』っていう気持ちになる時がある。現場が、舞台『弱虫ペダル』ではなく、おそらくは渡辺航先生がペンとインクで写し取る以前に先生の眼前に実在した『弱虫ペダル』という世界の地続きの場所になっていて、そこに自分たちがいる。『俺がもしも東堂尽八なら、ここでへこたれない』みたいな、本当にそういう気持ちになる瞬間が、舞台『弱虫ペダル』の限界を超えた領域にはあるなと思います」

鯨井「本当に。その限界まで行った先に、自分のキャラクターの言葉に戻ってきたりするんですよね。僕の演じていた手嶋はしんどい役だから『おまえがそう行くんだったら、俺もっとつらい思いしなきゃいけない』みたいなことを言うことがあるんですけど、舞台に立ってるなかで、仲間たちが必死で(ペダルを)回してるのを見て『俺、絶対負けちゃ駄目じゃん』って素で思ったりとか、そういうのをワーッてやってたりすると、結局キャラクターがそのすぐあとで、自分の感情そのままのセリフを言ったりするんですよ。そうやって、自分がキャラクターと一体化してしまう瞬間が、とってもおもしろいんです」

「『ペダステ』は、限界を超える作品なんだと思うんですよ」(鯨井)

舞台『弱虫ペダル』~総北新世代、始動~
舞台『弱虫ペダル』~総北新世代、始動~[c]渡辺航(週刊少年チャンピオン)2008/「弱虫ペダル」GR製作委員会2014[c]渡辺航(週刊少年チャンピオン)/マーベラス、東宝、セガ・ライブクリエイション

西田「現実と虚構が溶け合うどころか、全部現実だったんだ、みたいな瞬間。本当に、こんなにしんどかったらそれは勝つわとか、それは負けたら泣くわっていうのが、現実で起こってるんですよね」

鯨井「それが当たり前になってきて、相手が勝ったとしても許せます。『おまえ頑張ってたもんな』って。それは『おまえ』がキャラクターを指してるのか、お互い(役者同士)を指してるのか、やっぱり少しわからなくなってくるところはありますね」

西田「なんか大人げないというか、厨二病的と言いますか…」

鯨井「大人げないと思います、この作品!(笑)」

西田「現場がそうなっていく時に、認識の境界線が解けていくところがあるんですよね。僕はよく人に喋るエピソードがあって、舞台『弱虫ペダル』IRREGULAR~2つの頂上~という廣瀬智紀さんと北村諒さんがダブル主演の時の話なんですけど。何ステージ目かで、主演の2人の声が枯れ始めてね。それまでペース配分なんて考えずに本気でやってきたのに、さすがに『明日(の公演では)ペース配分する?』って演出の僕から言いだして、みんなシーンとしたんです。そしたら廣瀬さんが、役の巻島裕介さながらにゆら~っと立ち上がって『俺はやるぜ』って言ったんですよ。そしたら東堂尽八役の北村さんも立ち上がって『なら俺もやらないわけにはいかないな』ってなったことがあって。その時に、これが本当にインターハイならやるよな、と。そんなことが現実に稽古場で起こり始めた時、ついに俺たち本当のことやってるなって思いましたね。鯨井さんが登場する、前の年かな?」

巻島裕介役の廣瀬智紀(左)と東堂尽八役の北村諒(右)がW主演。舞台『弱虫ペダル』IRREGULAR~2つの頂上~
巻島裕介役の廣瀬智紀(左)と東堂尽八役の北村諒(右)がW主演。舞台『弱虫ペダル』IRREGULAR~2つの頂上~[c]渡辺航(週刊少年チャンピオン)2008/「弱虫ペダル」GR製作委員会[c]渡辺航(週刊少年チャンピオン)/マーベラス、東宝、セガ・ライブクリエイション

鯨井「(当時を思い出して)ギリギリでした。いまでも覚えてますけど、『ペダステ』が全公演終わって次の日から別作品の稽古に入るという日、その稽古場が地下だったんですが、地下への階段を本当に5分かけて降りました(笑)。足が動かなくて、正直本当に歩けなかった。力を出しすぎました」

西田「ペース配分は次の仕事のためにもすべきだし、冷静でいなければと思うんですけれど、でもやってしまう熱さというのが人間にはある。ここでやったほうが人生の宝になる、というようなこととかね」

鯨井「出ていた側の人間からすると、『ペダステ』は、限界を超える作品なんだと思うんですよ。やっぱり成長物語だし、新しい自分を発見していく話なので、俳優がそれを怠った時に、当然その作品性は失われると思います。僕はそこが本質だと思うので、役者がそこのペース配分を超えていくことは不思議じゃない、当たり前であってほしいと思う。難しいんですけど、どの作品も“超えること”をすべきだと思っています。『ペダステ』に出た僕からすると、これほどわかりやすい作品はないし、とても良い作品だなと心から思っています」

【写真を見る】舞台『弱虫ペダル』演出家の西田シャトナー×鯨井康介によるスペシャル対談!11年にわたるペダステの歴史をプレイバック
【写真を見る】舞台『弱虫ペダル』演出家の西田シャトナー×鯨井康介によるスペシャル対談!11年にわたるペダステの歴史をプレイバック撮影/興梠真穂

取材・文/高 浩美

映画ファンに出会ってほしい舞台がある【PR】
作品情報へ