『きさらぎ駅』『ヒッチハイク』、そして『リゾートバイト』…ネット民を恐怖に陥れた“洒落怖”とは?
“きさらぎ駅”の都市伝説の真相を追う女子大生に恐怖が迫る…
こうした“洒落怖”系のネット怪談を映画化した作品のなかでも、基となった話を知っているオカルトファンはもちろん、ホラー映画ファンをも唸らせた作品が、『リゾートバイト』でメガホンをとった永江二朗監督の前作『きさらぎ駅』(21)だ。
2004年の冬の深夜、「気のせいかも知れませんがよろしいですか?」という投稿から始まった「きさらぎ駅」。投稿者がいつも乗る電車に乗り込んだところ、一向に次の駅に到着せず、やがて聞いたことのない無人駅にたどり着いたという奇妙な報告がリアルタイムでなされ、投稿者は線路を歩いて戻ろうとするのだが、突然その投稿が途絶えてしまう。ネット上ではこの不条理な恐怖が話題を呼び、様々な考察が進められたものの、その真相はいまだに明らかになっていない。
それから数年経って、後日談のようなものが投稿されたり、SNS時代の到来と共に再拡散されるようになると、再び「きさらぎ駅」というワードが話題を集めるように。いまでは海を渡ってアジア圏の国々にも知れ渡るようになり、たびたび「きさらぎ駅」にたどり着いたと報告する投稿が様々な場所で見受けられる。
映画では、この不可解な投稿の真相を民俗学の観点から解明しようとする主人公の姿が描かれていく。恒松祐里演じる大学生の堤春奈は、卒業論文の題材として「きさらぎ駅」を選択し、すべての発端となった投稿者の女性に話を聞きに行くことに。単に「きさらぎ駅」の恐怖を描くのではなく、現実と同じネット怪談が存在する世界線で、その恐怖を追体験するというメタ構造。さらにほかの“洒落怖”作品を彷彿とさせる要素も含まれるなど、その完成度の高さは必見だ。
「ヒッチハイク」に「くねくね」“洒落怖”から生まれた怪談はほかにも
同じく“洒落怖”から生まれ、ネット住民たちに最大級のトラウマを植え付けたとも言われている話を映画化したのが『ヒッチハイク』(23)。日本を縦断するヒッチハイク旅行をしていた2人の男子大学生が、山奥のコンビニで一台のキャンピングカーと、それに乗り込む奇妙な家族と出会ったことで味わう想像を絶する恐怖が綴られた投稿を原典とし、視覚的により強烈な作品にパワーアップしている。
ちなみに芥見下々の人気漫画「呪術廻戦」に登場する「両面宿儺」は、もともと「日本書紀」に記された飛騨地方の鬼神様だが、それをモチーフにした怪談話も“洒落怖”の一つとして有名だ。古寺の解体中に発見された、呪物が封印された木箱を開けてしまった作業員たちが、次々と不幸に見舞われるという内容で、リアルな語り口がその恐ろしさを駆り立てる。気になる人は検索してみるといいが、くれぐれも自己責任で…。
ほかにも「くねくね」や「八尺様」など、オカルト系の創作物で頻繁に登場する怪異など、“洒落怖”をきっかけに一気に知れ渡った怪談話は多数あり、なかにはここで紹介した以外にも映像化されているものも。今後もこうしたネット怪談からホラー映画界を賑わす作品はどんどん増えていくことだろう。まずは『リゾートバイト』で、洒落にならない恐怖を存分に味わおう。
文/久保田 和馬