安藤桃子監督が語る、東京国際映画祭の醍醐味と観客とのコミュニケーション「映画に命を吹き込んでくれる場所」
「高知は、人間にとっての原点を感じられる場所。優しい世界の実現を目指しています」
子どもたちを対象に映画制作についてのワークショップも実施している安藤監督だが、子どもたちと接するなかでも、“映画の力”を感じる瞬間がたくさんあると続ける。
「映画は総合芸術と言われるものですから、現場に携わるうえではいろいろな役割があるもの。ある意味、映画の現場というのは社会の縮図のようで、一人一人が柱となり、輝ける場所だと感じています。ワークショップで子どもたちが映画を完成させていく過程を見ていると、どの子もものすごく輝き始めるんですよ!次第に『自分が好きなのはこういうことだ』『将来はこういうことをやりたい』と口にする子も出てきて、3日間のワークショップのなかでも大きな変化を感じることができます。こういう経験ができるのも、映画づくりや、映画の本質なのかなと思っています」。
現在は、移住先の高知で映画を中心とした文化を発信している。11月には、映画を通じて心と文化を伝える「kinema M」を高知市中心市街地にオープンする予定だ。さらに高知県での映画祭開催に向けても準備を進めるなど、精力的に映画と人をつなぐ活動に励んでいる。
安藤監督は「高知は、人間にとっての原点や、人との一体感をものすごく味わえる場所です。高知には“よさこい”がありますが、“よさこい”って全員が主役で、“前に進む”というルールからもわかるように、とてもポジティブな力を持っているもの。また高知のみんな心のなかには、坂本龍馬がいるようなところもあって。目的を果たそうとする志があって、とにかくすばらしいんですよ!」と、高知という土地からたくさんのエネルギーをもらっている様子。
そんな彼女がいますべての活動の指針としているのが、「優しい世界の実現」だ。「子どもたちと畑を耕したり、実行委員長として『高知オーガニックフェスタ』に関わらせてもらっていたりと、生物多様性や微生物を研究している人、大学の教授などと話す機会もたくさんあります。すると、『すべての命に優しい世界を実現したい』という想いが湧きあがってきて。私も過去には『もう生きていたくない』と思った経験もありますが、生命の本質というのは光に向かっていくものだと信じています。もし暗闇に植物の種を蒔いて、1ミリだけドアを開けたとしたら…。その1ミリの光に向かって、植物が伸びていきますよね。そうやって、命あるものは明るい方へ生きる方へと向かう本質的な力がある」と持論を展開。「優しい世界の実現は、映画祭でもできると思っています。映画を通していろいろな人の感性が響き合うことで、きっとそれぞれが希望に向かっていけるような意識の変化をもたらすことができるはず」と目を輝かせる。
映画祭では、あらゆる人々と対話することを楽しみにしているという安藤監督。2017年に開催された第30回東京国際映画祭では、Japan Now 部門女優特集「Japan Now 銀幕のミューズたち」において実妹で女優の安藤サクラの特集上映が組まれ、姉妹でトークショーに登壇。「映画ってすごいと思いませんか?皆さんの魂になにかをバーン!と突っ込んでくる。我々ができるのはこの道を開いていくこと」と声をあげ、会場から大きな拍手を浴びていたことも印象深い。安藤監督は「覚えています。あの時は、お客さんとの一体感がすごかった!」とにっこり。「そうやって、お客さんとコミュニケーションを取れることも映画祭の醍醐味ですよね。監督としては、自分の作品をお客さんが観てくれて、それに対して自分でも思ってもみなかった分析をしてくれて、心に響いたことを伝えてくれたりするとすごくうれしいもの。作り手は自分を知る機会にもなるし、作品もまた成長していく。そう考えると、映画祭はお客さんがさらに映画に命を吹き込んでくれる場所でもありますね」と開催を待ち望んでいた。
取材・文/成田おり枝
開催期間:2023年10月23日(月)~11月1日(水)
会場:日比谷、有楽町、丸の内、銀座地区
公式サイト:tiff-jp.net