役所広司、「一方的に大ファンで、恩師」と坂本龍一への敬意を告白。音楽家としての変化、最後のピアノソロコンサートに思い馳せる
開催中の第36回東京国際映画祭にて10月24日、Nippon Cinema Now 部門『Ryuichi Sakamoto | Opus』のトークショーがTOHOシネマズ日比谷で開催された。今年3月28日に亡くなった坂本龍一のコンサートドキュメンタリーとなる本作。トークショーには、坂本と親交があった俳優の役所広司が出席。坂本への想いを語った。
拍手を浴びながら上映前の会場に姿を現した役所は、「僕もこの映画が大好き。僕が坂本龍一さんのお話をできるほど、そんなに親しくさせてもらっているわけではないですが、一方的に大ファンで。本当に尊敬する人で、恩師だと思っています」と坂本への敬意を吐露。坂本の楽曲「美貌の青空」が使用された映画『バベル』(06)、音楽を手掛けた映画『シルク』(07)に出演している役所だが、「それ以前に、ニューヨークで坂本さんの仕事場の前にあるイタリアンレストランで食事をおごってもらったことが出会い」とのこと。「それ以降は、映画の音楽のことでいろいろと教えをいただいたり、いろいろなアイデアをいただいたこともあります。坂本龍一さんという人の音楽家としての才能に惹かれて、よく連絡をさせてもらっていました」と振り返った。
さらに音楽グループ「イエロー・マジック・オーケストラ(YMO)」で日本のポップシーンをリードする存在となったころの坂本の印象を聞かれた役所は、「時代の先端を行く、才能ある賢いお兄さんたちという感じ」とにっこり。「坂本さんは本にも書いていらっしゃいますが、その時代はお金と女性に目が眩んだ時代だとおっしゃっていました」と目尻を下げながら、「若いころから教授と呼ばれていましたが、お金と女性に目が眩んだ教授から始まって、そのころを経て、今日の映画で観る坂本さんまで、音楽の教授と呼ばれるに相応しいすばらしい音楽家になられたんだなと思います」と坂本の歩んだ道のりに思いを馳せた。
尊敬する坂本に対しては、「直接、面と向かってお話しすると緊張してしまってなかなかお話ができない」と苦笑いを見せた役所。「メールでいろいろなことを聞いたりすると、非常に丁寧にお答えをいただいた。ご自分の体が大変な時でも、コロナ、パンデミックなど気をつけてねと、気遣いをしてくださるような方」とその人柄にも惚れ込んでいる様子。第76回カンヌ国際映画祭では『PERFECT DAYS』(12月22日公開)で最優秀男優賞を受賞した役所だが、「カンヌの映画祭では『PERFECT DAYS』でレッドカーペットを行進する前に、僕たちはずいぶん待たされたんです。その時に『戦場のメリークリスマス』が突然かかった。ゾクッとしましたね」とカンヌでの裏話を明かすひと幕もあった。
この日に上映された『Ryuichi Sakamoto | Opus』は、坂本がこの世を去る前に遺した最後のピアノソロコンサートにおいて、ピアノ演奏する坂本の姿をモノクローム映像で捉えたコンサートドキュメンタリー。「僕は、NHKのスタジオで坂本さんのピアノ演奏を聴いたこともあるんですが、その時の坂本さんと、これから観る映画の坂本さんとは、すごく違いを感じます。まだお元気なころの坂本さんは、ピアノに向かうとすごく気迫を感じました。そのころは、体力も筋力もあった。今日の映画のなかで観る坂本さんは筋力はもうないんですが、“気”というんですかね。人間の気があって、一音、一音、丁寧に心を込めて演奏をされている坂本さんの顔は、本当に美しいと思いました。人間ってすべてが削ぎ落とされた時に、こんなに美しい姿を見せ、音楽家として美しい音楽を奏でるのかと本当に感動しました」としみじみと語っていた。
第36回東京国際映画祭は、11月1日(水)まで、日比谷、有楽町、丸の内、銀座地区にて開催。
取材・文/成田おり枝