極限まで純化された良い人っぷりに癒される『つんドル』など週末観るならこの3本!
MOVIE WALKER PRESSスタッフが、いま観てほしい映像作品3本を(独断と偏見で)紹介する連載企画「今週の☆☆☆」。今週は、元アイドルの作家による実録私小説の実写映画化、犯人の座を巡り3人の女性が駆け引きを繰り広げるクライムミステリー、スペインで実際に起きた事件を基にした心理スリラーの、人々の心のなかを描きだす3本。
現代人なら共感必至のヒューマンドラマ…『人生に詰んだ元アイドルは、赤の他人のおっさんと住む選択をした』(公開中)
芸能界を引退したアラサーの元アイドルが、仕事ナシ、男ナシ、残高10万円の切羽詰まった状態に陥ったことで、やむなく見ず知らずのおっさんと同居することに。本作はキャッチーで衝撃的なタイトルとは裏腹に、閉塞感にさいなまれた現代人なら共感必至のヒューマンドラマだ。メンタルをこじらせ前に進めなくなった一人の女性が、他者の存在に癒され、人生の転機を迎える姿を描く。原作はSDN48の元メンバーで作家の大木亜希子が自身の体験をベースにつむいだ実録私小説。同じくアイドル経験を持つ元乃木坂48の深川麻衣が“人生に詰んだ“ヒロインである安希子を等身大に演じた。
本作でやはり気になるのは、安希子の同居人であるササポン(56歳)の存在だろう。ももひき姿で室内をウロウロしたり、背中を丸くしながらテレビを観たりする姿はまさにザ・昭和のおっさん!だが、安希子をありのままに受け入れてくれる懐の深さにほっこりし、豊かな人生経験から発せられるなにげに深い一言には妙に納得させられてしまう。ササポンを演じた井浦新は、「素敵なセリフを、いかに素敵にならないように、普通のおじさんでいるさじ加減が難しかった」と語っているが、オーラを封印し、これまでに演じたことのない難役を飄々と怪演。その極限まで純化された良い人っぷりに癒される!(ライター・足立美由紀)
オシャレで小粋な犯罪コメディ…『私がやりました』(公開中)
日本での人気も高く、年平均1本の割合で撮り続けるフランソワ・オゾン監督。諸事情でズレたのか今年だけで日本公開作は3作にのぼるが、それを比較しただけでも彼の多才ぶり、引き出しの多さに驚かされる。2月公開の『すべてうまくいきますように』は父親の尊厳死を巡る娘の奮闘を描いた社会派人間ドラマ。6月公開の『苦い涙』はアルモドバル作品かと見紛うキッチュでドぎつい風味の、若い男に振り回される中年映画監督の破れし恋の物語。そして本作は、ルビッチら往年の映画を彷彿とさせるオシャレで小粋な犯罪コメディ。自身のフィルモグラフィのなかでは、『8人の女たち』(02)に最も近いか。
セクハラ有名映画プロデューサーの殺人を巡り、それを足掛かりにしようと“我こそが真犯人”と主張する女2人と友人弁護士らが入り乱れ…。アラアラそんなことがとクスクス笑っているうちに、成り上がったり崖っぷちに立たされたり、事態は二転三転。なにが吉と出るか分からない人生ゲームのようなスリルと、小憎たらしいまでに自分勝手なのに魅力的な女たち。富や権力を持つ男たちを手玉に取り、あるいは懲らしめる展開も爽快!ラスボス的に登場する派手な女を、イザベル・ユペールが嬉々として演じているのも楽しい。(映画ライター・折田千鶴子)
雄大な自然の美しさと、対照的に小さな人間たちのゾッとするような諍い…『理想郷』(公開中)
豊かな自然に魅せられ、緑深い山岳地帯スペイン、ガリシア地方の小さな村に移住してきたフランス人夫妻。ところが住民たちは困窮しており、自然を守りたい彼らと大きく意見が対立する。余所者にはわかるまいと頑として話を聞かない村から出たことのない地元民と他所からやってきたこそ土地の良さがわかる夫妻。溝はやがて取り返しのつかない事態に発展する。
スペインで実際に起きた事件がベースになった心理スリラーはスペイン、フランスで大ヒット。日本でもコロナ禍に端を発した地方移住トラブルはいまや大きな問題となっており、他人事ではない。映像に映る、季節ごとに表情を変える雄大な自然の美しさと、対照的に小さな人間たちのゾッとするような諍い、嫌がらせ。怪優ドゥニ・メノーシェさえ震え上がり、逃げ惑う姿に恐怖は最高潮に。村人のキャストに素人や無名の俳優を絶妙にブレンドしているところにもリアルさが生まれ、嫌な気持ちがマシマシに。(映画ライター・高山亜紀)
映画を観たいけれど、どの作品を選べばいいかわからない…という人は、ぜひこのレビューを参考にお気に入りの1本を見つけてみて。
構成/サンクレイオ翼