カンヌ、ニューヨーク映画祭のプログラマーによる対談が実現!映画祭のプロから見た東京国際映画祭の魅力
「“その年の映画シーンを見せる映画祭”にすることを目的としています」(リム)
――カンヌ国際映画祭は5月、ニューヨーク国際映画祭は10月が会期です。お2人は1年をどのように過ごすのでしょうか? プログラマーとしての年間スケジュールを伺いたいです。
ジュンヌ「毎年9月から11月は中国、韓国、インドそして日本などを含めアジアを中心にオーストラリア、インドネシア、ブラジル、アルゼンチン、ヨーロッパなどを訪れ、たくさんの映画関係者と会っています。11月くらいにパリでスクリーニングをして、12月はサンダンスやベルリンの準備が始まるので、記者発表を含めて1月から4月までがすごく忙しい時期です。5月に入ると忙しすぎて映画が観られない時期になります(笑)。すごく忙しいですが、カンヌにはスタッフがたくさんいるので、みんなで協力しながら準備を始めて、夏はちょっとしたホリデーをとる、ここ25年くらいはそんな1年を過ごしています」
リム「ニューヨーク映画祭は9月から10月中旬が開催時期なので、年間スケジュールはジュンヌさんとはだいぶ違うと思います。映画祭が終わった、まさにいまがバケーションのタイミングです(笑)。実は年初まではあまりやることはなくて。というのもニューヨーク映画祭にはコンペがありません。ワールドプレミアも重視していないので、ほかの映画祭とスケジュールはだいぶ違うと思います。60年ほどの歴史のある映画祭ですが、ニューヨークは“その年の映画シーンを見せる映画祭”にすることを目的としています。目指すのは『フェスティバル・オブ・フェスティバル』。カンヌやベルリンなどに足を運び、映画を探したり、映画人とのミーティングもしますが、ジュンヌさんより出張は少ないです。春頃からセレクションが始まり、7月にはほぼ固まるので、ジュンヌさんが休んでいるころが一番忙しいかもしれないです」
――インディペンデント映画祭も世界各地で開催されています。テルライド映画祭のようにここ数年評判が上がってきている映画祭もありますが、どうご覧になっていますか?
ジュンヌ「テルライド映画祭も歴史ある映画祭です。そして、それぞれの映画祭にアイデンティティがあります。映画祭で一番重要なのは、国際的なものも含めて観客に映画を届けることなので、やり方やテーマは違っても、やろうとしていることは同じだと思っています」
リム「テルライド映画祭の評判が上がった要因の一つとして、アワードを始めたことがあるのではないでしょうか。ニューヨークではアワードは作っていませんが、9月頃の開催なので、どのような賞を獲っているかも、プログラムを考えるうえで重要視しています」
――カンヌには映画マーケットがありますが、ニューヨークにはありません。映画祭と映画マーケットの相互関係について、そしてマーケットを持たないNYは、映画産業とどう結びついているのかを教えてください。
リム「ニューヨークには映画売買の枠組みという意味では、公式なマーケットはありません。でも、ニューヨーク自体がマーケットとも言えます。ロサンゼルスにスタジオが多くありますが、インディペンデント系の映画となれば、ニューヨークがかなり盛んです。ブースを出したり、ミーティングをするなど形式的に公式なものはありませんが、映画祭会期中に配給が決まることもよくあるので、マーケットとしてすでに機能していると言っていいような気もしています」
ジュンヌ「映画祭の後にAFM(アメリカン・フィルム・マーケット:1981年から開催されているカンヌやベルリンと並ぶ世界最大の映画マーケットの1つ)があるのも大きいですよね」
リム「確かにそうですね」
――自分の映画祭で見つけた、育てたという監督はいらっしゃいますか?
ジュンヌ「私たちが発見したというよりも、たくさんの人に観てもらう手助けをしていると考えています。映画祭は観客の皆さんがすばらしい映画に出会う、場所です。1980年代のフランスの有名なジャーナリストの言葉にあるように、自分たちのことは“パッサー=届ける人”だと考えています。適切なタイミングですばらしい映画を観る、私たちはそういう場所を作っているのだと思います」
リム「まったく同感です!」