杉咲花が映画『市子』で感じた作品の引力「芝居を通して自分がなにを感じるのかを知りたかった」
劇団チーズtheaterの傑作舞台「川辺市子のために」を、原作者の戸田彬弘が映画化した『市子』(12月8日公開)。第28回釜山国際映画祭コンペティション、第36回東京国際映画祭にも正式出品され、注目を集めている本作で描かれるのは、過酷な宿命を背負った女性、川辺市子の壮絶な人生。MOVIE WALKER PRESSでは主人公の市子を演じた杉咲花を直撃。本作の撮影を「精根尽き果てるまで心血を注いだことを忘れられません。その日々は猛烈な痛みを伴いながら、胸が燃えるほどあついあついものでした」と振り返る杉咲に、「市子」を演じての想いや共演者たちの印象を語ってもらった。
恋人からプロポーズを受けた翌日に突然失踪した市子。恋人の長谷川が行方を追い、これまで市子とかかわりがあった人々から証言を得ていくと、彼女の底知れない人物像と衝撃的な真実が次々と浮き彫りになっていく。名前を変え、年齢を偽り、社会から逃れるように生きてきた市子は、なぜそのような人生を歩まなければならなかったのか。
「この役を演じる機会が与えられたことに強く考えさせられました」
台本を読んだ時には涙が止まらないという初めての感覚を味わい、現場には心を動かすなにかがあり、思わず体が動いてしまう感覚もあったという杉咲。その「なにか」については演じたあとでも言葉にするのは難しいそうだ。「これまではどこか自分の感覚と照らし合わせて共感できたり、共感できなくても理解はできるといったところで、なにかが自分のなかで結びついて役に向き合っていたのですが、市子に関してはそういうものからはちょっと離れた感覚でした。言葉にできないけれど、とにかく心が突き動かされる状態。だからこそ、お芝居を通して自分がなにを感じていくのかを知りたかったんです」。
「この役を演じられる機会が与えられたということについても強く考えさせられました」ともコメントした杉咲。市子役を通じて、杉咲自身も作品のテーマについていろいろと考える時間が多かったという。「他者と関わるとはどういうことなのか、この作品が描く根源的なテーマでもあるところで撮影中も気付かされたような部分がありました。例えば、監督は私が1つ質問したことに対して10くらいの回答をくださる方。でもその話し方はどれも『こうなんじゃないですかね』とか『こうだと思います』という言い方で、断定をしないんです。原作者だからこそ『誰よりも市子を知っている』とおっしゃってもおかしくないはずなのに、あくまでこれは自分の視点であって市子本人がどうかはわからないけれど…という姿勢でいる。その姿に心からの敬意を覚えましたし、他者との関わりにおいてや演じる役に対しても、そんな姿勢であるべきだと考えさせられました」と本作を生み出した戸田監督の姿勢に触れた。