杉咲花が映画『市子』で感じた作品の引力「芝居を通して自分がなにを感じるのかを知りたかった」
「私にとって間違いなくターニングポイントになった作品です」
市子の最初の恋人、田中宗介を演じるのは倉悠貴。「朝ドラ(「おちょやん」)では姉弟でしたが、今回は恋人役。朝ドラの時に過ごした時間はとても濃密で、いまだに私は役名の“ヨシヲ”と呼んでいますし、ヨシヲは私のことを“姉やん”と呼んでくれていて。本当に弟のように慕わせてもらっているのに恋人役だなんて、なんだかいけないようなことをしているような気分にもなってしまって(笑)。変な気分でしたが、倉くんは佇まいがすごくおもしろくて、ピュアだけどいびつなものを内包している印象があるので、彼にしかないオリジナリティに市子としても惹かれていました」と、前作とは違う関係性を演じた心境を明かした。
舞台版で主演を務めた大浦千佳は、映画では市子の幼馴染を演じている。大浦演じる幼馴染のさつきが市子のことを語る姿には、なんともいえない説得力を感じる。「舞台を拝見するかどうかはとても迷いました。間違いなく影響を受けると思ったからです。お話をいただいたタイミングではまだ拝見していなかったので、情報を入れずに映画に臨む選択をしました。千佳ちゃんは方言指導としてもずっと現場にいてくださったので、かなりの時間をともに歩ませてもらいました。1人の観客として映画のなかの市子を捉えてくださったことには、とても感謝しています。やはり市子を演じた千佳ちゃんが観ているということは緊張もあったので」と正直な気持ちを言葉にした。
様々な役を生きてきた杉咲が“初めての感覚”を味わった本作は、自身にとってどのような作品になったのだろうか。「観てくださった方が、市子をまるで実在する人物のように受け止めてくださる方が多くて。伝えてくださる感想が熱を帯びていることを感じて、とてもうれしいです。私がこの作品で感じた引力もそういった反響と結びついているのかなと思います。私にとって間違いなくターニングポイントになった作品です。実生活でも演じるうえでも、自分が他者とこれからどう向き合っていくのか、ということについても考えさせられた作品で、すばらしい時間を過ごさせてもらうことができました」と充実感を漂わせた。
取材・文/タナカシノブ