杉咲花が映画『市子』で感じた作品の引力「芝居を通して自分がなにを感じるのかを知りたかった」

インタビュー

杉咲花が映画『市子』で感じた作品の引力「芝居を通して自分がなにを感じるのかを知りたかった」

「どこまでいっても他者は他者なんだということが腑に落ちるような感覚でした」

舞台から映画になるうえで、「川辺市子のために」から『市子』というシンプルなタイトルとなった本作。戸田監督自身もこのタイトルが気に入っており、妙案だったとコメントしている。「撮影をしている時に、実はまだタイトルを迷っているというお話をされていました。でも、この物語は市子とはどんな人物だったのか市子に関わる人間が追っていく話であると同時に、市子自身が自分の姿を探す話でもあって。作品自体が『これは市子の物語である』と名前を高らかに叫ぶことが重要な気がして、私はこのタイトル以外考えられないと思ったんですよね」。

『市子』というタイトルもお気に入りだという
『市子』というタイトルもお気に入りだという撮影/黒羽政士

市子を「知りたい」という感情を持って撮影に挑み、役を演じ切ったいま、市子のことをどこまで理解することができたのだろうか。「他者を知ることは不可能に近いんだなというところに帰着した感じがあります。今回、演じ手としての欲が剥がれ落ちて、自分がどう表現したいかではではなく、起こった事象に対して心が勝手に反応するだけの時間というものに立ち会えたのは初めての感覚でした。それだけの感覚を味わわせてくれる作品だったと感じると同時に、市子のことをわからないままカメラの前に立ってしまうような瞬間もあって。現場ではそれを繰り返していたような気がします。役を生きるというのはこういうことなのかなと錯覚した瞬間もあったけれど、最終的にはやっぱりどこまでいっても他者は他者なんだということが腑に落ちるような感覚でした」と初めての感覚を詳細に語る。「限りなくその人の心情に近づくというのでしょうか。想像を重ねて接近するという時間だったような気がしています」と市子を生きた時間を振り返った。


撮影中も弾ける笑顔をみせた
撮影中も弾ける笑顔をみせた撮影/黒羽政士

市子の人生にかかわった人物を演じる共演者も多彩な顔ぶれだ。恋人の長谷川を演じた若葉竜也とは連続テレビ小説「おちょやん」、「杉咲花の撮休」に続き3回目の共演となる。「共演が決まった時点で安堵がありました。若葉さんが目の前にいてくれたらすべての問題が解決するんじゃないかと思わせてもらえるような、とても稀有な共演者の方です。若葉さんは、表現欲やご自身の損得で立ち回ることが一切ない方で。ただ、その時目の前にいる人のために静かにそこにいてくれる人。そんな人の眼差しを注いでもらえる世界を市子は生きているんだということに、胸がいっぱいになるような感覚でしたし、だからこそ、これまで味わったことのないところに到達することができたのではないかと思っています。この作品で共演できて本当に幸せでした」と心から感謝した。

市子がわからないままカメラの前に立つこともあったそう
市子がわからないままカメラの前に立つこともあったそう[c]2023 映画「市子」製作委員会

市子に好意を寄せていた高校時代の同級生、北秀和役の森永悠希については「共演は初めてでしたが、あっけらかんとされた方という印象があります。カメラが回っていない時にはとてもラフで柔らかい雰囲気をもって現場にいらっしゃる方で、役との温度差がおもしろいなって。誰に対しても優しいので、いてくれるとなんだかうれしい気分になる、愉快な方でした」と共演の感想を明かす。

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