新垣結衣×磯村勇斗にインタビュー。観る者の価値観を揺るがす『正欲』の出演で感じたこととは
『桐島、部活やめるってよ』(12)や『何者』(16)などの原作者としても知られる朝井リョウが、作家生活10周年を記念して書き上げたベストセラー小説を、『あゝ、荒野』(17)の岸善幸監督が映画化した『正欲』が、現在公開中。
“多様性を尊重する時代”といわれながら、社会の片隅で、それぞれの生きづらさを抱える者たちが登場する物語。ともに他人に知られたくない性的指向を持ち、中学時代の同級生同士でもある男女、夏月と佳道を演じたのは、本作で初共演を果たした新垣結衣と磯村勇斗だ。観る者の価値観を揺るがす衝撃的なテーマに挑み、世間の“フツウ”と本来の自分とのギャップに苦しむ人間の孤独を体現した2人が、本作への思いを語ってくれた。
「役者として挑戦する価値がある作品だと感じました」(磯村)
――第34回柴田錬三郎賞も受賞した原作小説は「これまでの価値観を覆す読書体験」だと大きな話題を呼びました。映画化作品へのオファーがあった時の率直な気持ちをお聞かせください。
新垣「企画書を読ませていただいた時点で、すごく興味を持って。そのあとに原作も読んで、映画化するにあたって、すごく難しいこともたくさんある内容だとは思ったんですが、岸監督は『不安に思っている部分があれば伝えてほしい』とおっしゃって、台本になる前の準備稿も見せてくださって。いろいろなやりとりを通して、最初に共通認識を持てたことで、監督やスタッフのみなさんと同じ方向を向いてやっていけそうだなと思えたので、『ぜひやらせていただきたいです!』って」
磯村「僕はまず、岸善幸監督だったことが大きかったですね。岸監督とは『前科者』に続いて2作目になりますが、『また一緒にやりましょう』という話をしてくださっていたので。『正欲』に関しては、一度読んだだけですべてを理解するのはやっぱり難しくて。だけどその難しいところに、役者として挑戦する価値がある。そして、ちゃんと世に出す意味があるテーマ性を持つ物語だなと感じて、参加しました」
新垣「最初に不安を抱いていたのは、夏月たちの指向について、どう表現するのかなということでした。正解がないなかで『こういうものです』と具体的な形にして見せていいのかなと思って。なので、あくまでも今回の映画の中における描き方は『こういう形にしよう』と各々話し合い、確認し合っていく感じでした」
磯村「とある指向というところに関しては、僕もすごく考えました。そういうシーンが“楽しい”になってしまったら、それはまた違うし。どこか身体の熱が上がってくるようなものにしていく必要があったので。そこは気持ちをどう持っていこうかなと。台本を読んだ時に、すごく難しいだろうなと思っていました」
――広島のショッピングモールで販売員として働き、実家暮らしで同じ日々を繰り返している夏月。彼女の同級生で、中学三年生の時に横浜に引っ越し、15年ぶりに広島に戻ってきた佳道。本作でお2人が演じた夏月と佳道というキャラクターについては、どのような印象を持ちましたか?
新垣「夏月は決して特別な人ではなく、悲しいことは悲しい、嬉しいことは嬉しいと感じる、本当に普通の人だと思うんです。ただ、とある指向を持っていることから、どこに行っても自分の居場所ではないような気がする重苦しさというか、常に身体のまわりに霧がかかっているような感覚がある。その霧が、佳道と再会することによって、晴れていく感じがしました」
磯村「佳道も、夏月同様、とある指向を持ちながらも、自分の心の奥に鎖をして、なんとか社会になじもうとしている青年で。やっぱり社会の中で孤独や寂しさを感じていたし、世の中に対して諦めを抱いていたと思うんですけど。夏月と出会うことで、再生へと向かっていくんですよね」
新垣「夏月と同じものとは言えませんが、私自身、ふとした時に『生きづらいな』と感じたことはあります。それが仲間と出会えたことでスッと楽になっていくような体験って、感じたことがある人もいるのではないかと思います」
磯村「人には理解できないこととか、個人的に好きなものとか、そういうのは僕も持っていますし。きっとみなさんも何かしらあると思うんですよ。だから、そういう感覚はとてもよくわかりました」
新垣「現場では、最初のうちは私ひとりの撮影が続いていて、鬱々としたシーンが多かったんです。だから、磯村さんが早く来ないかなと思っていて。磯村さんがクランクインした日は、やっと会えた!みたいな気持ちになって、すごく嬉しくて(笑)。夏月と佳道も、もしかしたらこんな感覚だったのかなと思いました」
――お2人は本作が初共演となります。共演した感想はいかがでしたか?
新垣「磯村さんはナチュラルで、好奇心旺盛で。いい意味で力が抜けているし、私もすごく自然にお芝居することができました」
磯村「ありがとうございます(笑)。僕がナチュラルでいられたのは、新垣さんの現場での立ち居振る舞いや、お芝居の醸し出す空気がナチュラルだったから。今回、僕はそこになじんでいきたいなと思っていたので。本当に新垣さんのおかげですね」
新垣「ありがとうございます(笑)。夏月と佳道が抱き合うシーンを撮影する前に、どういう見せ方をするかについて、監督と改めて話し合いをしたじゃないですか。その時、意見がまとまるのにちょっと時間がかかっていたんですけど、ずっと話を聞いていた磯村さんが『それって、こういうことなのでは?』って話し出したとたんに、パッとまとまったんです。そういうふうにしっかり俯瞰で見ていらっしゃるところもあるし。役柄的にも、私的にも非常に頼りにしておりました」
磯村「夏月と佳道の2人のシーンは、本当にいい空気が流れていたなぁと思いました。新垣さんは感受性がとても豊かで深いイメージがあるので、どんなお芝居でも受けてくださいます。お話していても常に柔らかいですし、なんて素敵な人なんだと。今回が初めましてでしたけど、人としても、俳優としても、とても尊敬する方です」
新垣「(照れながら)こちらこそ」