綾野剛、主演作『花腐し』出演の決め手は匂い立つ脚本「映画人のなかでいろいろなことを学びたい」

映画『花腐し』(公開中)の公開記念舞台挨拶が11月11日、テアトル新宿にて行われ、主演の綾野剛、共演の柄本佑、さとうほなみ、荒井晴彦監督が登壇した。

芥川賞受賞の松浦寿輝の同名小説を実写映画化した本作は、荒井監督が、“ピンク映画へのレクイエム”とし、ピンク映画業界で生きる監督の栩谷、脚本家の伊関、女優の祥子というふたりの男とひとりの女が織りなす切なくも純粋な愛を描き出す。綾野が栩谷を演じ、荒井監督の『火口のふたり』(19)にも出演した柄本が伊関役、さとうが祥子役を務めている。

綾野は観客席を見渡しながら「終わりを迎えること、始まりを迎えることの連続のなかで作品は存在しています。皆さんに観ていただくことで作品が育っていくことが本当に嬉しくて仕方ないです」と笑顔で挨拶。出演の決め手については「素直に荒井監督の現場に行きたいという気持ちでした」と話し、「今日は現場で支えてくださった各部署の方がたくさん来てくださっています」と舞台挨拶に集まったスタッフに感謝。「映画人のなかに入って、よりいろいろなことを学びたいという思いがありました。脚本からは映画の匂いが沸き立っていて。その脚本に出会えたことがなによりもうれしいです」と本作との出会いを喜んだ。

柄本も出演の決め手は「荒井監督だったから。それ以外に(理由は)ない」とニッコリ。「綾野さんも言ったように、映画というなかに仲間入りできる感覚があります」とし、『火口のふたり』出演時にも同じ感覚があったと振り返る。さらに「個人的なことですが、『火口のふたり』で心残りな部分があったので、もう一度荒井監督のセリフにチャレンジできるし、やるべきだと思いました」と出演に至った経緯に触れながら、「でも、やっぱりシンプルに、荒井監督の本だからというのが大きいです！」と絶大な信頼を口にしていた。

キャスティングの進め方について荒井監督は「いろいろあります」とニヤリ。「綾野さん、さとうさんとは初めて。僕はとても人見知りなので、子どもの頃から知っている佑には心の支えとして現場に居てほしいと思っていました」と柄本の起用理由を明かす。綾野の印象については「とてもまじめで優等生」と話した荒井監督は、「もし出てくれないと言ったら、誕生日が同じことを理由に口説こうと思っていました(笑)」と照れ笑いする綾野の顔を覗き込み、2人で微笑み合う場面もあった。

撮影を振り返り柄本は「大体のお尻は出し尽くしました」とニヤニヤ。「『火口のふたり』で出し尽くしたと思ったけれど、まだまだ出すお尻は残っています」とネタバレを気にせず楽しそうに話す柄本に綾野は「上映後はなんでも言えるのがいいよね」と笑顔で反応。綾野は柄本のセリフ回しについて「初速のスピードが本当にうっとりします」と絶賛し、柄本のセリフ回しを参考にイメージできる部分があったとも明かす。

また「栩谷は感情が表情に出ないし、雄弁じゃない。人って自分が感じていることを表現できる人ばかりではありません。だけど心は動いているから、そんな人を肯定したい。だから僕たちも役者をやっている。自分がなにものであるかというのを表現できないからこそ、いろいろな役を通して学んでいることもあります」と役を通して感じたことを丁寧に伝えていた。

最後の挨拶で綾野は「一見懐かしく、ノスタルジック。昔観てきた映画の匂いというのがあります」と本作の魅力に触れ、「現代にこういう映画があるからこそ、映画って古くならないと思えました。映画のあり方を改めて実寸大で体感させてくれました。役者にとってもみなさんにとっても大切な作品になったらと思っています。そして、荒井監督にはまた映画を撮ってほしいという願いを込めて、(この映画が)僕たちが想像できないような育ち方をすることを願っています」と呼びかけ、イベントを締めくくった。

取材・文/タナカシノブ