“終わりなき戦争”とAI、難民問題やワクチンも…リアルとシンクロする「攻殻機動隊」の世界観をたどる
士郎正宗が生みだしたサイバーパンクSFの金字塔「攻殻機動隊」シリーズ。その最新作となる劇場用長編アニメーション『攻殻機動隊 SAC_2045 最後の人間』が、11月23日(木・祝)より3週間限定で全国30館にて公開される。1989年に原作が発表されて以来、アニメーションやハリウッドでの実写映画など様々な作品群が展開してきた「攻殻機動隊」シリーズ。これまで多くの人々を魅了してきたその世界観について、いま一度ひも解いていこう。
2020年にNetflixで配信された「攻殻機動隊 SAC_2045」シーズン1に新たなシーンを加えて再構成した『攻殻機動隊 SAC_2045 持続可能戦争』(21)に続き、2022年に配信開始となったシーズン2に新たなシーンと視点を加えて再構成した本作。神山健治と荒牧伸志が総監督を務め、『新聞記者』(19)や『余命10年』(22)など実写映画のフィールドで活躍する藤井道人が『持続可能戦争』に引き続きメガホンをとる。
原作が発表された1989年当時は、まだ普通の人々にとってそれほど身近ではなかったインターネットや電脳犯罪。「攻殻機動隊」は、それらを主体に描いた作品にもかかわらず、鮮烈なSFアクションと時代を予見した展開で観る者を驚かせてきた。主人公の草薙素子をはじめとする多くの人間たちが電脳化され、全身義体のサイボーグも当たり前に存在するSFの世界観でありながら、シリーズを通して現代にも通底するような身近な社会問題が描かれてきたのが最大の特徴だ。
なかでも「攻殻機動隊 STAND ALONE COMPLEX」で描かれる高齢化社会や難民問題、そしてワクチン問題については、放送された2002年時点でも世界のいたるところで取り沙汰されていたテーマではあるが、約20年のうちに多くの人々にとってより身近なものとなっている。そして前作『攻殻機動隊 SAC_2045 持続可能戦争』で描かれたのは、AIが管理する経済行為としてコントロールされた戦争(=持続可能戦争)。シーズン1の配信が始まった2020年当時には、“終わりのない戦争”を身近に感じている人はまだ少なかっただろう。
続く『攻殻機動隊 SAC_2045 最後の人間』で描かれているのは、AIによって人知を超えた能力を覚醒させた新たな人類(=ポスト・ヒューマン)の出現と、“現実”と“電脳世界”を同時に生きるという考え方をもとに新世界を作りだそうとする者たちとの戦いだ。昨今、一般向けにもAIが普及し、フェイク画像やフェイク動画が社会問題化しているが、SNSやVRによって現実とバーチャルな世界の差が縮まったいまだからこそ、よりリアルに感じられるストーリーとなっている。
まるで未来予測をしているようにも感じるが、神山総監督は「『攻殻』の世界全体がWEB3.0になったほうが、この“先”があるとしても可能性があると思ったんです。これから世の中がどう進んでいくかというと、かつて考えられたサイバーパンクのような未来ではなく、もっと異なる方向ではないか。それを写し取れるような世界であった方が、これからいいだろうと考えました」と、“いま”を考え、そこに希望を描くことに注力したと明かしている。
Netflixシリーズとは異なるクライマックスが用意されている本作で、草薙素子たちにいったいどんな物語が待ち受けているのか。是非とも劇場で見届けてほしい。
文/久保田 和馬