アルコ&ピース平子祐希、初の小説連載!「ピンキー☆キャッチ」第25回 中込防衛大臣
MOVIE WALKER PRESSの公式YouTubeチャンネルで映画番組「酒と平和と映画談義」に出演中のお笑いコンビ「アルコ&ピース」。そのネタ担当平子祐希が、MOVIE WALKER PRESSにて自身初の小説「ピンキー☆キャッチ」を連載中。第25回はついに防衛大臣との会議に挑むのだが…。
ピンキー☆キャッチ 第25回 中込防衛大臣
防衛大臣の中込は、入室から終始不機嫌さを隠さなかった。
無理もない、元々中込は一連の怪人による破壊行動においても『取るに足らない民間レベルの迷惑行為』として捉えており、防衛省の介入にも元々消極的であった。それらが今、日本を基点に異星人が世界征服をたくらんでいるとの説明を受けたのだ。
160cmに満たぬ細身で見栄えのしない老人ではあるが、派閥作りに長けており、大臣の名目以上の実権を持つ男だ。こうした総意を模索する場というものは、得てしてその場のトップの顔色次第で白にも黒にも傾く。ましてや防衛省という縦軸の機関であれば尚更のことだ。都築が諸々の状況説明を終えるも、資料を一瞥もしない中込の態度に飲み込まれ、広大な第一会議室内は都築に対して冷ややかなムードが蔓延していた。
「・・・以上が今現在明らかになっている事実です。一部の予測部分に関しても検証を急ぎ、今後は~」
「ああ君、もういいよ。うん、もう大丈夫」
中込が手をヒラヒラさせながら都築の発言を制した。空気を察した中込派の連中が、鼻でせせら笑う声がそこここで漏れた。後部下座には上司の吉崎と部下の遠山が並びで座り、その後ろにはピンキーの3人が中込を睨みながら座っていた。木原が海外出張で出席できなかった事で心細さが増している。
メンバーは重要な報告の場ということで同席させたが、ここであの子達が難癖をつけてしまうのは不味い。『とりあえず大人しくしていてくれ』と都築はメンバーを目で牽制し、大げさにあくびをする中込の言葉を待った。
「津田君だっけ?」
「都築と申します」
「ああ都築君ね。君さ、私が今の話を国会で説明するの?『シャンパン星人が攻めて来ますよ~』って」
会議室内は野太い笑い声に包まれた。
「いえ、シャンパンはあくまで資源としての活用が予想されているだけであって、その盗難事件がメインではありません。あくまでこの日本を基点とした征服計画を危惧しているのです」
「一緒だよぉ!『シャンパンたらふく飲んだ宇宙人が赤ら顔でやって来ますよ~』って。これ国民に注意喚起するの?私の頭がおかしくなったと思わせるのが目的か?」
「順を追って説明をすれば理解してくれるはずです。シャンパンの盗難に関しても不可解な証拠映像が山のようにあるんです」
ここで中込派からも声が上がった。
「僕も証拠映像見たことあるよ、捕まった宇宙人の手術動画!あれも重要な一次資料って訳だ!」
その日一番の笑い声が起きた。あまりに取り付く島のない返答に都築は内心震えるほどに憤慨していたが、自分がここで感情的になってはいけない。
「長谷部君の言うとおりじゃないのぉ?今時映像なんていくらでも加工出来ちゃうんだしね。それに普段から君達街中でも『怪人出現!』とかなんとか戦隊ごっこやってるんだろう?アレだってさ、母体が防衛省だと世間に露呈したらどう思われる?あんなの単なる迷惑YouTuberの類じゃないのかね。わたしは前から言ってるの、警察に任せとけばいいって」
中込は舌がノってきたのだろう。周囲をもっと盛り上げようと軽口を続けたが、都築は今の言葉は看過できそうになかった。怪人討伐の活動の中で、自分達がどれだけの犠牲を払ってきたことか。プライベートで気の休まる時間なども奪われ、いつ現れるのかも知れない怪人の情報に常に細心の注意を向けてきた。
自分達だけではない。夜通しでメンテナンスをしてくれる開発チーム、サポートしてくれる上司や部下。そして命を懸けて戦っているメンバー達。七海などあれだけの大怪我を負ったのだ、長としてその報告を受けてないはずもなかろう。それを戦隊ごっこと言い放った。『畜生、それだけは我慢ならぬ・・』都築は戯け続ける中込の顔を睨め付けると、下腹に力を込めて一歩前に詰め寄った。その時、
「ねえねえ都築さ~ん」
場にそぐわない間の抜けた声が聞こえ、ハッと正気を取り戻した都築は声の主の方へ振り返った。
(つづく)
文/平子祐希
1978年生まれ、福島県出身。お笑いコンビ「アルコ&ピース」のネタ担当。相方は酒井健太。漫才とコントを偏りなく制作する実力派。TVのバラエティからラジオ、俳優、執筆業などマルチに活躍。MOVIE WALKER PRESS公式YouTubeチャンネルでは映画番組「酒と平和と映画談義」も連載中。著書に「今夜も嫁を口説こうか」(扶桑社刊)がある。