“親愛なる隣人”スパイダーマンは、なぜ愛される?これまでの歴史を総まくり! [スパイダーマン・タイムズ #1]
昨年公開された『シビル・ウォー/キャプテン・アメリカ』で、まさかの助っ人として登場し、鮮烈なデビューを飾った新・スパイダーマン=ピーター・パーカー。8月11日(金・祝)より公開となる『スパイダーマン:ホームカミング』では、ついに新シリーズが幕を開け、アイアンマンに憧れ、アベンジャーズになりたいと願う15歳の高校生ピーター・パーカーが、自分の夢に向かって、壁にぶつかりながらも、がむしゃらに頑張り、真のヒーローへと成長していく姿が描かれている。
既に公開されている、世界53か国でNo.1を獲得するヒットを記録している本作だが、特に米国内でのスパイダーマン人気は凄まじく、これまで製作された映画作品6本はもちろんすべて初登場No.1。合計興行収入は18億6000万ドル、日本円にして2000億円を超えている。
何故、スパイダーマンはこれほどまでに米国内で愛されているのか。本稿では、その秘密を探りながら「スパイダーマン」の歩んできた歴史を振り返ってみよう。
スパイダーマンがメディアに初登場したのは、1962年8月に発行された、Amazing Fantasyというコミック誌の15号に掲載された、わずか11ページの漫画だった。ストーリー自体はサム・ライミ監督の映画版第1作で語られたものとほぼ共通しており、ピーターの叔父ベンの死をきっかけとした誕生秘話となっている。最後のコマには、スパイダーマンの世界観を象徴する台詞である「大いなる力には、大いなる責任が伴う」が印象的に記されている。
当時人気のあったコミックヒーロー作品では、主人公は常に成人した筋骨隆々の男性であり、精神的に未熟な高校生がヒーローであるという設定は、ヒーローに憧れや願望を投影する事の多いアメリカでは、ほぼ前例のないものだった。しかし、本作の原作者で、当時マーベル・コミックス編集長、後にマーベル社の代表となるスタン・リー(御年94歳!)は、あえてその風潮の逆をいったのだ。
実際、掲載誌そのものはこの号で休刊が決定しているなど、期待を背負った華々しいデビューとは言い難いものだったが、スタンは作品の成功を確信していた。
結果、その11ページの漫画は大評判となり、ついには単独誌「The Amazing Spider-Man」 が、1963年3月に発行されるまでに至った。以来同誌は、誌名変更を経ながら50年以上に渡り刊行されている。
スタンは、インタビューでスパイダーマンの魅力についてこう語っている。「彼はたまたま超能力を持ってしまった、ごく普通の少年なんだ。ピーターは貧乏で、クラスの人気者でも、スポーツ選手でもないし、ハンサムでもない。読者が『まるで僕だ』と共感できる人物なんだ」。彼の考えはまさに、自分がスーパーヒーローになれない事を知っている少年たちの心をつかんだのだった。
スパイダーマンは、その特徴的なコスチュームと、普遍的なキャラクター像ゆえに、常にメディア化されてきた。
テレビアニメを例にとっても、1967年にスタートしたシリーズを皮切りに、今年始まった9作目となる新シリーズに至るまで、実に50年間にわたって、再放送も含むと、ほぼ切れ目なく放送が続いている。
彼が登場するメディアは多岐にわたり、テレビゲームが20本以上、小説版に、ユニヴァーサル・スタジオ内の人気アトラクション、近年ではブロードウェイでミュージカル版が上演されたこともあるほどだ。
その中でも、多くのクリエイターが挑戦し、挫折していったのが、最大の難関である“実写化”の壁だ。
1977年からは実写ドラマ版がアメリカで製作されたものの、原作とかけ離れた展開や、クモの糸の描写を縄を使って処理するなどのチープさが災いしてか、大ヒットには至らず、放送回数13回で終了した。
翌1978年からは、日本の東映製作で30分枠の特撮番組として製作されたが、敵役をオリジナルキャラクターのモンスター教授が率いる鉄十字団としたり、蜘蛛の力を与えたのが宇宙人という事になっていたり、戦闘シーンの最後には「レオパルドン」という巨大ロボットにスパイダーマンが乗り込んで敵を踏み潰すという斬新な設定が災いしてか、こちらも1年に満たない期間で終わってしまった(余談だが、スタン本人はこのシリーズを嫌っていないようだ)。
ビル間を自在に飛び回るアクションや、蜘蛛の糸の描写など、どうしても技術的制約が付きまとってしまうのが、スパイダーマン実写化の課題であり、それを解決するにはCGが成熟したレベルに達する2000年代を待つしかなかったのだ。
ちなみに、1990年代前半には『ターミネーター2』(91)でCGの新たな可能性を切り開いたジェームズ・キャメロン監督が、映画化を目指して脚本も執筆していたが、権利問題により降板している。この時キャメロンが生み出したのが、原作になかった、蜘蛛の糸がピーターの体内で生成されるというアイディアだ。
これら先行作品の試行錯誤が結実し、2002年、ついに、サム・ライミ監督による『スパイダーマン』が公開されるに至った。
その後、監督と主演俳優を交代し、テイストを変化させながら『スパイダーマン:ホームカミング』まで作り続けられてきたシリーズだが、根底に流れる「大いなる力には、大いなる責任が伴う」というテーマは全く変わらず、今作にも受け継がれている。
等身大の高校生であるがゆえに、悩み、傷つきながら、自分の内面の弱さと向き合っていく姿に、読者は心打たれてきた。
スパイダーマンの最も知られた愛称に“あなたの親愛なる隣人”というものがあるが、彼がここまで長い間愛される理由は、何の変哲もない少年ピーターと、読者の“親愛なる隣人”という距離感にこそ、あるのだろう。【Movie Walker】
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