建築家・永山祐子が語る109シネマズプレミアム新宿、そして坂本龍一「音を聴けばすぐに分かる、特別な存在です」
「知らない映画を観ても、音を聴けば『あ、坂本さんだ』と分かる。そういう音楽家って、私にとってはそんなに多くない」
――坂本さんの音楽は、以前からお聴きになられていましたか。
永山「はい。私の音楽の聴き方はとても特殊で、なにかに集中する時に同じ曲を延々とリピートするんです。そういう時には坂本さんのピアノ・ソロをずっと聴き続けたり。坂本さんの音楽では、やはり映画音楽が強く印象に残っています。『戦場のメリークリスマス』や『ラストエンペラー』が4Kリマスターで再上映されたり、映画館で坂本龍一さんの作品を観られる機会もあるじゃないですか。観に行きたいなと思っていたところです」
――坂本さんの手掛けた映画音楽については、永山さんはどのような印象をお持ちでしょうか。
永山「坂本さんの音楽について深く語れるほどの知識はありませんが、例えば『戦場のメリークリスマス』を観ていると、どうしてこんなに映像にフィットする音楽を付けられるんだろうと驚いてしまいます。せつなさや懐かしさ、優しさや厳しさが全部音に込められていると思うんです。知らない映画を観ても、音を聴けば『あ、坂本さんだ』と分かる。そういう音楽家って、私にとってはそんなに多くないので、やはり特別な存在です。いつか坂本さんが音楽を手掛けられた映画を、109シネマズプレミアム新宿で観てみたいですね」
――音楽と建築に、なにか共通点を感じたりしますか。エンニオ・モリコーネはドキュメンタリー映画『モリコーネ 映画が恋した音楽家』の中で「音符は音楽を作るためのネジみたいなもの。建築資材としての音符でどんな音楽を作る(建てる)かは音楽家によってまるで違う」といった趣旨の発言をしていました。
永山「なるほど。イメージを形にするという意味では似ている部分もあると思います。特に映画音楽は、基本的に監督というクライアントの発注を受けて作曲するという意味でも建築に似ているかもしれません。ただ、アウトプットするものは全然違いますよね。建築は目に見える具体物を作る仕事ですが、音楽には形がない。私にはどう作ればいいのか想像もできない領域だから、素直に『すごいなあ』と思うばかりです」
――永山さんが空間としての映画館に求めるものを教えてください。
永山「その映画と向き合うための数時間を過ごす空間ですから、最優先したいのは居心地の良さですね。私も時々この映画館で映画を観させていただくのですが、座席がふかふかで極上時間を過ごせます」
――普段、映画館には普段よく行かれますか。
永山「最近は子どもを連れて行くことが多いですね。新宿だとTOHOシネマズが多いかな。私自身は阿佐ヶ谷で生まれ育ったので、中高生の頃は新宿のピカデリーやコマ劇場によく行きました。はっきり憶えてはいないけれど、(かつて東急歌舞伎町タワーの場所にあった)ミラノ座にも多分何度か行ったと思います。子どもたちとこちらの映画館にも何度か来ています。来る時は子ども一人一人とデートで来るようにしています。始まる前にラウンジでポップコーン食べながら向かい合ってゆっくり話せるのがとてもいいです」
――お子さんにご自身の仕事を見せる時に、これほど分かりやすい成果物はなかなかありませんね。
永山「2人とも小学生になって、私の仕事も理解してくれるようになりました。『ママのことは誇りに思う。でも、ときどき寂しい』と言われたので『ごめんね』と言ったら、『あやまってほしくはない』と返されました(笑)。子どもたちのほうが、よっぽどしっかりしています」
「来ていただいた方が歌舞伎町という街の歴史に目を向けるきっかけになればうれしい」
――東急歌舞伎町タワーが今後どのような存在になってほしいですか。
「私は建築家なので、自分が関わったビルや施設ができるだけ長くその街の一部として機能してほしいと思っています。でも、すべての建築物がその街の『歴史』の上に建てられていることも忘れてはいけない。東急歌舞伎町タワーもそうです。先人たちの取り組みがあったから、今こうして竣工に辿り着くことができたと思っています。エンタテインメントの発信地として歌舞伎町の未来を照らすシンボルになると同時に、来ていただいた方が歌舞伎町という街の歴史に目を向けるきっかけになればうれしいですね」
なお、現在109シネマズプレミアム新宿では、坂本龍一氏が音楽制作を担当した映画やライブ映像、さらに坂本氏が「#観たいもの」とメモしていた、109シネマズプレミアム新宿で観たかった作品を上映する『Ryuichi Sakamoto Premium Collection』を、新たな作品を加えラインナップをアップデートして6月27日(木)まで開催中だ。さらに、2年以上となる闘病生活を続けていた坂本龍一が、最後の力を振り絞り演奏した映像収録した『Ryuichi Sakamoto | Opus』が109シネマズプレミアム新宿で4月26日(金)に先行公開されることを記念し、坂本氏出演のライブ映像を3作連続で上映するオールナイト上映企画が4月12日(金)~13日(土)にかけて実施されることも発表済み。
この機会に、特別な映画館で、坂本龍一氏の音楽に浸ってほしい。
取材・文/伊藤隆剛
1975年東京生まれ。1998年昭和女子大学生活美学科卒業。1998−2002年 青木淳建築計画事務所勤務。2002年永山祐子建築設計設立。2020年~武蔵野美術大学客員教授。2023年グッドデザイン賞 審査副委員長。主な仕事、「LOUIS VUITTON 京都大丸店」、「丘のある家」、「豊島横尾館(美術館)」、「女神の森セントラルガーデン(小淵沢のホール・複合施設)」「ドバイ国際博覧会日本館」、「玉川髙島屋S・C 本館グランパティオ」、「JINS PARK」、「膜屋根のいえ」、「東急歌舞伎町タワー」など。ロレアル賞奨励賞、JCDデザイン賞奨励賞(2005)、AR Awards(UK)優秀賞(2006)「丘のある家」、ARCHITECTURAL RECORD Award, Design Vanguard(2012)、JIA新人賞(2014)「豊島横尾館」、山梨県建築文化賞、JCD Design Award銀賞(2017)、東京建築賞優秀賞(2018)「女神の森セントラルガーデン」、照明学会照明デザイン賞最優秀賞(2021)「玉川髙島屋S・C 本館グランパティオ」、World Architecture Festival 2022 Highly Commended(2022)、iF Design Award 2023 Winner(2023)「JINS PARK 前橋」など。現在、2025年大阪・関西万博にて、パナソニックグループパビリオン「ノモの国」と「ウーマンズパビリオン in collaboration with Cartier」、東京駅前常盤橋プロジェクト「TOKYO TORCH」などの計画が進行中。
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