『屋根裏のラジャー』公開前では邦画史上初となる圧巻の全編フル・オーケストラ生演奏を堪能!「魔法のような瞬間」感激のあまり鈴木梨央も思わず涙
『メアリと魔女の花』(17)のスタジオポノック長編アニメーション最新作となる『屋根裏のラジャー』(12月15日公開)の「ジャパン・シネマ・オーケストラ」が12月6日に東京オペラシティで開催され、声優を務めた寺田心、鈴木梨央、仲里依紗、イッセー尾形、百瀬義行監督、西村義明プロデューサー、そして主題歌を歌うア・グレイト・ビッグ・ワールドのイアン・アクセルが登壇。映画公開前に行われるのは邦画史上初となる全編フル・オーケストラの生演奏を観客と一緒に全員で堪能し、鈴木は「この作品に携われたことがとても幸せ」だと語りステージ上でも堪えきれず涙を流した。
イギリスの詩人で作家の A.Fハロルドによる「The Imaginary」を原作に、想像から生まれた誰にも見えない主人公の少年ラジャーと、想像の友達であるイマジナリーフレンドたちの現実と想像が交錯する世界で繰り広げられる大冒険が圧倒的アニメーションで描かれる本作。
この日、神奈川フィルハーモニー管弦楽団による極上のフル・オーケストラ演奏で本作を味わったラジャー役の寺田は、「本日で映画を観るのは3回目。毎回観る視点が違いますが、3回目になるとあくまで考察ですが最後にかかる主題歌の『Nothing’s Impossible 』が、ラジャーとアマンダのお父さんがアマンダや皆さんに向けて言いたいこと、伝えたいことなのではないかと歌詞について考えさせられました」と語り、本日の演奏についても「僕も音楽を少し学んでいるので、すごさがよく分かりますし素晴らしかったです!」と感激の様子。ラジャーを生みだした少女のアマンダ役を演じた鈴木も、「素敵な演奏とともに映画を観ることができて…なんだか涙があふれてきちゃうんですけど」と思わずステージ上で涙を流しながら、「アマンダを演じることができて感慨深いものがありますし、この作品に携わることができてとても幸せだなと改めて感じます」と声をふりしぼって吐露。
またイマジナリの町でラジャーが出会う少女エミリを演じた仲は、「こんな環境で観させていただくことは初めてなので本当に貴重な経験でした。前回観た時よりもさらに映画に没入できか、みんなで作っているんだなとさらに伝わってきました。もう号泣しちゃったので、ちょっと一回メイク直したいくらいですね(笑)」と会場を笑わせ、「今日も同じところで涙が止まらなくなって、ずっと『これメイク直さないまま登壇するんだよな』って考えていました(笑)」と告白。
さらにイッセーは「最初からオケの音が聞こえてもう鳥肌が立って、泣きっぱなし。それと(神奈川フィルの指揮者である)栗田さんの演奏しない時の直立した姿勢が、目に焼きつきました(笑)」と大ホールでの圧巻の演奏上映に感激した様子を見せ、百瀬監督も「アニメーションは数秒のカットを仕上げるのに3日〜1週間くらいかかる。今日のようなコンサートはみんなと共有できるものですが、今回こういう形で自分が携わった作品でライブ感を体験できたというのは、すごくいい体験でした。皆さん本当にありがとうございました」と感謝を述べた。
西村プロデューサーは「映画館とは違う体験だったので、観客として観てしまって言葉が出なくなってしまいましたが、これからどんどん本作が共有されていくと思うととても嬉しい気持ちです。そして実は本作はクリエイターたちが見えないところで500人くらいがんばっていて、その中のスタッフがこの会場にいるのでぜひ拍手をしてあげていただきたい」と話すと、会場の観客からは万雷の拍手が送られた。
さらに神奈川フィルハーモニー管弦楽団の栗田指揮者は「映画っていいですよね。音楽っていいですよね。そして『屋根裏のラジャー』、最高ですよね!」と笑顔で会場に呼びかけ、「公開前にフルオーケストラコンサートでやるという初めての経験をとても嬉しく思っています。個人的に難しかったのは、屋根裏でアマンダが泣いているシーン。このシーンで『Nothing’s Impossible 』がかかりますけど、僕も一番最初に楽譜を見ながら映画を観た時に泣きました。ラジャーとアマンドの約束で『泣かないこと』ってあるんですけど、僕も一回目で泣いちゃいました(笑)」と茶目っ気たっぷりに述懐。
そして本作の主題歌『Nothing’s Impossible 』を歌うのが、グラミー賞アーティストであるア・グレイト・ビッグ・ワールド。今回緊急来日を果たしたア・グレイト・ビッグ・ワールドのイアン・アクセルは、今回の鑑賞と生演奏を終えて「もう夢が叶ったという感じ」と開口一番に明かし、「曲作りをしている時は細部に渡って顕微鏡を見るように作曲していましたが、数年後に日本へやって来てこのようなステージに上がって演奏できて、こんなような場所は私はこれまで見たことがないです。魔法のような瞬間で本当に嬉しく思っています」と満面の笑みを浮かべた。
ア・グレイト・ビッグ・ワールドの主題歌起用について、西村プロデューサーは「最後のラジャーのセリフがあのようなセリフなので、その後どういう声が入ればいいのかと考えていた時に、僕がその6~7年前に聴いた彼の 『Say Something』という代表曲に巡り会って、100回くらい聞いていたとても好きな曲なんですけど、それでイアンの声を思い出して『あっイアンの声だったら、ラジャーの後に締めくくる声になるかもしれない』と彼にオファーしました。声に惚れました」と理由を告白。
それに対しイアンは、「西村さんにお手紙をいただきまして、僕自身、西村さんを尊敬していますし作品もファン。どんなことを求めているのかと伺い、今回台本を読んで僕も泣きました。僕自身も2人の息子がいるお父さんでちょうど息子と話していたのですが、私たちは自分の愛しているものと離れても、心の中に残っている記憶はずっと残っている。大事にしている人が亡くなってもずっと繋がりは残るし、時間を超えてずっとあり続ける。本作はそんなメッセージだったと思います。情熱プロジェクトという感じの作品で、そういう作品に関われて本当に光栄でした」と胸の内を明かし、この日サンダルまで全身ピンクの装いで登場した仲が、キラキラと光るジャケットをまとったイアンに「とてもお衣装が素敵で!」と声をかけると、すかさず「目立つようにと言われたので(笑)」とイアンも返すなど、終始和やかな雰囲気に包まれていた。
また、コロナ禍含め様々な苦労が制作途中にあった本作。寺田は「いろいろな方が何年もかけて作られた作品なので、この作品に僕自身が関われてとても嬉しく思いますし、僕の声変わり前の不安定な時期の作品で、その声をこの素敵な作品で形に残すことができて光栄です。素敵な体験でした」と充実した表情を見せる場面も。
さらに製作の過程について、西村プロデューサーは「作品の制作期間が延びて公開を延期したのですが、2021年の年末くらいにイアンからデモ曲がきて、当時僕も現場もめちゃくちゃ大変で『この作品はもうできないんじゃないか』と混乱していた時に、もう無理だとなっていたんですけど、そのデモを聴いたら涙が出ちゃって…。映画ができないかもしれないのに、『Nothing’s Impossible、できるよできるよ』って言われていると(笑)。できないこともあるんだと感じましたが、ちゃんと完成しました。この曲がなければラジャーが生まれていなかったかもしれないですし、この声が最後締めくくっているのが奇跡的。イアンが僕たちの声に応えてくれたのがすごく嬉しい」とイアンに感謝を述べつつ、当時を振り返った。
またイベントの最後には、スペシャルアンコールとしてイアンがオーケストラの生演奏と共に本作にとってとても大切な曲となった全米大ヒットソング「Say Something」を一夜限りの生歌唱。この日だけの贅沢なコラボレーションに会場全体が聴き入っていた。さらにイベントでは、本作のIMAX上映の決定とドルビーシネマでの同時公開も発表された。
取材・文/富塚沙羅