『レザボア・ドッグス』はなにが斬新だった!?クエンティン・タランティーノの原点を探る

コラム

『レザボア・ドッグス』はなにが斬新だった!?クエンティン・タランティーノの原点を探る

退場者も出たインパクト大のバイオレンスシーン…

本作を語るうえで、最も多く使われた言葉は“バイオレンス”だろう。しかし暴力描写は、実はそれほど多くはない。本作にそのイメージを植え付けたのは、ミスター・ブロンドが警官を拷問し、片耳を剃刀で切り落とす場面。このシークエンスにしても、ブロンドの残虐行為そのものを画面上では描いていないし、のちのタランティーノ作品のバイオレンス描写を思い起こせば上品なほう(?)だが、それでもインパクトは強烈だった。実際、1992年のカンヌ国際映画祭で上映された際には、この場面で退出した観客が数人いたという。

バイオレンスなシーンも話題に!
バイオレンスなシーンも話題に![c] 1991 Dog Eat Dog Productions, Inc. All Rights Reserved.

あらゆる映画を観てきたタランティーノならでは演出力

なによりも映画好きを唸らせたのは、タランティーノの演出の引き出しの多さだ。冒頭のダイナーのシーンでのテーブルを回るカメラワークから一転、犯行現場の混乱を捉えた手持ちカメラでの揺れ動くショットへ。この場面は深作欣二監督の『仁義なき戦い』(73)からの影響が垣間見られる。ほかにもタランティーノは、スタンリー・キューブリックの『現金に体を張れ』(56)からのプロットの引用や、ジョン・ウーの『男たちの挽歌』(86)をヒントにしたクライマックスなど、多くの作品から発想を得たことを認めている。すなわち、本作にはタランティーノの映画愛が凝縮されているのだ。

タランティーノの映画愛が随所に感じられる
タランティーノの映画愛が随所に感じられる[c] 1991 Dog Eat Dog Productions, Inc. All Rights Reserved.


サントラもヒットした選曲センス

音楽にも触れておきたい。本作で使用された楽曲は、映画が製作された1992年の時点では、忘れ去られた1970年代のポピュラーソングばかり。これらがラジオから流れてくるのだが、そのノスタルジックな響きが本作の世界観にハマった。オープニングタイトルに重なるザ・ジョージ・ベイカー・セレクションの「リトル・グリーン・バッグ」の陽気な響きからグイグイくるし、スティーラーズ・ホィール「スタック・イン・ザ・ミドル・ウィズ・ユー」は先述の痛々しい“耳裂き”シーンを軽妙に彩る。これらを収めたサントラ盤もまたヒットしたが、それはタランティーノの選曲センスがあったからこそ、だ。

『レザボア・ドッグス』のオリジナル・サウンドトラックが12月20日(水)に発売!10 年ぶりに解説、歌詞、対訳付の日本盤がリリースされる。
『レザボア・ドッグス』のオリジナル・サウンドトラックが12月20日(水)に発売!10 年ぶりに解説、歌詞、対訳付の日本盤がリリースされる。[c] 1991 Dog Eat Dog Productions, Inc. All Rights Reserved.

タランティーノのファンならすでにお気づきと思うが、ここまで挙げてきた本作の魅力は、以後のタランティーノ作品にも通じている。裏を返せば、本作にはタランティーノのすべてが凝縮されているということ。映画監督を目指してきたタランティーノは若い頃、監督デビュー作はそれまで生きてきたことすべてが反映された、強烈なものでなければならないという哲学を持っていたという。『レザボア・ドッグス』は、まさにそんな一撃だったのだ。

文/有馬楽

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