あらゆるビジュアル表現が駆使された極上アートの世界『哀れなるものたち』など週末観るならこの3本!
MOVIE WALKER PRESSスタッフが、いま観てほしい映像作品3本を(独断と偏見で)紹介する連載企画「今週の☆☆☆」。今週は、ヨルゴス・ランティモス監督&エマ・ストーンのタッグが贈る壮大な冒険の旅、「魔女の宅急便」の作者に密着したドキュメンタリー、リム・カーワイ監督によるバルカン半島3部作の完結編の、独自の視点で描かれた3本。
多くの経験で自我を発見するプロセスに、女性としての自立がシンクロする…『哀れなるものたち』(公開中)
ストーリーをそのまま伝えたら、かなり奇妙で過激。それなのに“おしゃれ”な映画を観ている感覚に陥る。そんな不思議な一作。天才外科医によって胎児の脳が移植され、蘇生した主人公のベラ。外見は大人で精神は子どもというアンバランスな状態を、エマ・ストーンは文字どおり体を張って表現する。初めて見る物に対する反応というピュアな側面はもちろん、強調されるのは人間の「性のめざめ」で、躊躇なくすべてをさらけだすストーンに圧倒されるのは間違いない。
外の世界に出る欲求にかられたベラは、ロンドンからリスボン、エジプトのアレキサンドリア、そしてパリを巡るが、多くの経験で自我を発見するプロセスに、女性としての自立がシンクロ。産みの親の外科医や、ベラに夢中になる弁護士ら男性たちが“哀れ”に見えていく流れから、本作の鋭いメッセージが感じられるはず。モノクロとカラーの映像の使い分けや、クラシカルな美術や衣装、明らかに作り物に見える背景など、あらゆるビジュアル表現が駆使され、極上アートの世界に浸りながら、予想外の感動が待ち受ける。(映画ライター・斉藤博昭)
カラフルでバイタリティにあふれる日常…『カラフルな魔女~角野栄子の物語が生まれる暮らし~』(公開中)
「魔女の宅急便」の作者として知られ、児童文学の「小さなノーベル賞」といわれる国際アンデルセン賞の作家賞を受賞した角野栄子の4年間に密着したドキュメンタリー。NHK Eテレで好評を博した同タイトルのシリーズに新たな映像を加えて再編集された本作では、レギュラー番組でもナレーションを務めた宮崎あおいが語り役として続投。88歳ながら現在も精力的に物語をつむぎ続ける“魔女”の、楽しく物語を書くための秘訣やカラフルでバイタリティにあふれる日常を描きだす。
鎌倉にある自宅のテーマカラーは大好きな「いちご色」。個性的な眼鏡や色とりどりのワンピースに身を包み、執筆活動の後には散歩をしながらご贔屓の雑貨店やカフェに顔をだしてちょっとしたおしゃべりを楽しむ。仕事と日々の暮らしのバランスを上手にとりつつ、明るく朗らかに人生を楽しむそのライフスタイルは、観ているだけでウキウキとさせられ心華やぐ。その一方で、「誰よりも自分が楽しむこと」をモットーに「自分の好きなものを自分で選ぶという自由」を謳歌する彼女の、そうした人生観に至るまでの波乱万丈な半生や作家になるきっかけをくれた恩師というべき人物とのエピソードにも肉迫。おしゃれでチャーミングでしなやかな“作家、角野栄子”の全てにすっかり魅了され、改めて彼女が手がけた物語に触れなおしてみたくなること請け合いだ。(ライター・足立美由紀)
リアルな言葉や反応にドキリとさせる…『すべて、至るところにある』(公開中)
大阪を拠点に無国籍で活躍するマレーシア出身のリム・カーワイが、旧ユーゴスラビアの巨大建造物を背景に、世界をさすらいながら映画を撮り続ける男と2人の女との邂逅と別れを綴る。カーワイによる『どこでもない、ここしかない』(18)、『いつか、どこかで』(19)に続くバルカン半島3部作の完結編となる本作は、俳優や登場人物が重なることで前2作と有機的に絡みつく。それが過去と現在、記憶と現実と虚構を交錯させ、心を泡立てる。街角にも人々の心にも、色濃く残る戦争の傷跡。新たに起きたパンデミック。本作でも継承される即興性を取り入れたスタイルは、スクリーン内における事象のみならず、スクリーン外=我々が生きる現実を映し込み、ゆえに人々のリアルな言葉や反応にドキリとさせる緊迫感を生む。
映画監督ジェイ役に、カーワイ作品常連の尚玄。彼の消息を追うヒロインに、『いつか、どこかで』のアデラ・ソー。どこに居るのかフと分からなくなるような眩暈に似た混乱を覚えつつ、バルカン半島の美しい風景や巨大建造物に目を奪われ、だからこそ同地の歴史がもつ痛みや悲しみが胸を刺す。とはいえ、登場人物にはみな飄々とユーモアが漂い、それゆえより後ろ髪を引かれる好篇である。(映画ライター・折田千鶴子)
映画を観たいけれど、どの作品を選べばいいかわからない…という人は、ぜひこのレビューを参考にお気に入りの1本を見つけてみて。
構成/サンクレイオ翼
※宮崎あおいの「崎」は「たつさき」が正式表記