西川貴教が語る『機動戦士ガンダムSEED FREEDOM』主題歌と小室哲哉の作詞術「聴き手に委ねられるような楽曲」
「『FREEDOM』は “これしかない”絶妙なタイトル」
小室が作詞も手掛けた「FREEDOM」では、歌詞のワードチョイスにも驚きがあったと西川は語る。「あえて難しい言い回しではなく、すごくシンプルでわかりやすい言葉を選ばれている印象を受けました。いまのJ-POPやJ-ROCKは、一聴しただけでは歌詞をはっきり聴き取れない曲や、イントロも無ければ間奏も無く3分くらいで終わってしまうような曲も多いです。それに反して『FREEDOM』は、たっぷり5分近くありますし、あらゆる部分で時代と逆行している楽曲です。あえて時代に対して挑戦しているような気概をすごく感じましたし、そういう曲を小室さんと共に届けることができることにすごく意義を感じています。きっと、何度も聴いたり何度も口ずさんでいくうちに、世界観がどんどん馴染んでくる。そういう魅力がある曲になったのではないでしょうか」。
昔はギター一本の弾き語り音源が送られてきて、それを元に楽曲が作られていた。現在のポップスは打ち込みで、アレンジもほぼ完成されているものが多いという。「このままで本チャンまでいけちゃうんじゃないかと思うほどのクオリティが当たり前になっている」と西川。そんな時代において、小室のデモは非常に胸に響くものだったと話す。
「すごくシンプルなリズムパターンに最低限の鍵盤と歌のメロディだけで、それも小室さんご自身が仮歌を歌ってくださっていました。それを元に、本番のボーカルを録る前にはデモの状態で歌わせていただいたり、小室さんの手によってオケ(楽曲からボーカルを除いた音源)が目に見えて変化していったりと、久々に音楽が形を成していく経過を一緒に辿っていくような感覚がありました。“一聴して良い”だけじゃなく、聴いた人の心象風景と重なることで、その人の音楽に変わる。聴き手に委ねられるような楽曲だなという印象です。『機動戦士ガンダムSEED FREEDOM』をご覧になった方のなかで楽曲『FREEDOM』が熟成されて、それぞれのなかでどんな曲になっていくのか期待しています」。
楽曲のタイトル「FREEDOM」は、デモの段階で小室が付けていたものであり、「 “これしかない”という絶妙なタイトルです」と笑顔を見せる。同曲の歌詞には、「純粋な笑顔を支えに 駆け抜けたあの頃の風を もう1度感じたい Save Tears」というフレーズがある。ここからは、シリーズの20年の積み重ねと、作品に関わってきた人々の想いが感じられる。戦争とは?愛とは?―「FREEDOM」という楽曲は、『機動戦士ガンダムSEED FREEDOM』と共に、いまという時代に様々なことを問いかけている。
取材・文/榑林史章