『ザ・ガーディアン/守護者』で待望の監督デビュー!普通のキャラクターを演じてこそ輝くチョン・ウソンの非凡な魅力

コラム

『ザ・ガーディアン/守護者』で待望の監督デビュー!普通のキャラクターを演じてこそ輝くチョン・ウソンの非凡な魅力

ごく普通のキャラクター(あるいは普通であろうとする人物)を演じた時にこそ、最も光る

第40回青龍映画賞で主演男優賞に輝いた『無垢なる証人』
第40回青龍映画賞で主演男優賞に輝いた『無垢なる証人』[c]LOTTE Cultureworks / Courtesy Everett Collection / AFLO

ここまで、アクション作品ばかりに触れてきたが、もちろん恋愛映画にも何作か出演している。『八月のクリスマス』のホ・ジノ監督による中国を舞台にした『きみに微笑む雨』(09)、背徳的な愛を描いた『愛のタリオ』(14)、事故で10年間の記憶を失ってしまった男に扮した『私を忘れないで』(16)で、それぞれ違った形のロマンスを演じている。ただ、『私の頭の中の消しゴム』のイメージが強すぎるのか、男優との相性のほうがいいからなのか、彼のフィルモグラフィーの中ではやや埋もれた感は否めない。

そんな彼のキャリアの中で特筆すべき作品は、ロマンスでもアクションでもない、ヒューマンドラマ『無垢なる証人』(19)だ。彼が演じたのは、かつては弱者の味方として闘っていたが、借金返済のために大手ローファームに移籍した弁護士スノ。殺人事件の容疑者の担当となり、唯一の目撃者だという女子中学生ジウ(キム・ヒャンギ)に会いに行くが、彼女は自閉スペクトラム症で意思疎通が難しい。スノは弁舌爽やかな切れ者ではなく、生活に追われていることもあって風采も上がらない。それでも、なんとかジウに近づこうと努力を重ねる姿勢は誠実さにあふれていて、そこには貧しいなかで苦労して育ったチョン・ウソン自身の真面目な人柄が投影されているようだ。青龍映画賞をはじめ各賞に輝いた彼の演技が心に染みる。

盟友イ・ジョンジェの初監督作『ハント』で共演を果たした
盟友イ・ジョンジェの初監督作『ハント』で共演を果たした[c]Magnolia Pictures / Courtesy Everett Collection / AFLO

その後も精力的に活動を続け、2020年にはチョン・ドヨン、ユン・ヨジョンら豪華キャスト共演が話題となったクライムアクション『藁にもすがる獣たち』、『鋼鉄の雨』の第2弾にあたる『スティール・レイン』が公開。翌2021年は、イ・ジョンジェの初監督作『ハント』(22)の撮影に半年以上を費やした。80年代を背景に、国家安全企画部の別チームに所属する男2人が、互いに相手をスパイと疑い対立を深めていく様子を緊張感たっぷりに描いた野心作で、イ・ジョンジェとW主演を務めた。『太陽はない』以来とは思えない息の合った2人の競演に、見ているだけでワクワクさせられ、盟友によって引き出されたチョン・ウソンの魅力を堪能することができる。

『ザ・ガーディアン/守護者』の監督として、「ナムギルは現場で僕との接し方に苦労したと思う」と語るチョン・ウソン
『ザ・ガーディアン/守護者』の監督として、「ナムギルは現場で僕との接し方に苦労したと思う」と語るチョン・ウソン[c]2022 ACEMAKER MOVIEWORKS & STUDIO TAKE CO., LTD. All Rights Reserved.

『ハント』よりも前の2020年に撮影を終えていた『ガーディアン/守護者』は、前述したように自らの監督・主演作。チョン・ウソンは組織のために殺人を犯し、10年間服役した後に出所したスヒョク役。かつての兄貴分に足を洗うことを伝えるものの、簡単にはいかない。殺し屋が差し向けられ、存在も知らなかった幼い娘がさらわれて、愛する者を助けようと立ち上がる。決死の追跡劇は見どころたっぷりだ。爆弾を投げつけられても銃撃されても倒れない不死身の彼は超人的だが、見せ場としてはクレイジーな殺し屋をけれん味たっぷりに演じた後輩キム・ナムギルに譲った形だ。逆にそれがスヒョクという人物にリアルな存在感を与え、平凡な生活を望む彼の心情のほうに不思議と気持ちが向くようになっていく。

手話を特訓して主人公を演じた「愛していると言ってくれ」
手話を特訓して主人公を演じた「愛していると言ってくれ」[c]2023 KT Studio Genie Co., Ltd

こうして振り返ってみて感じたのは、チョン・ウソンは、例え特異な状況に置かれていても、ごく普通のキャラクター(あるいは普通であろうとする人物)を演じた時、最も光るということだ。彼が久々に正統派ラブストーリーの主役を務めた最新ドラマ「愛していると言ってくれ」を観て、そのことを再確認。耳の聞こえない画家ジヌと、女優志望のヒロイン・モウン(シン・ヒョンビン)の恋模様は決して特殊なものではなく、それゆえに2人が心を通わせていく過程にときめかずにはいられない。オリジナルの日本のドラマを気に入ったチョン・ウソン自身が版権を取得し、満を持してリメイクに漕ぎ着けただけのことはあり、「やはり彼にはラブロマンスが似合う!」と声を大にして言いたくなる。50代を迎えてこれだけの素敵な恋を演じられるのだから、この先さらに成熟した大人の恋愛を見せてくれることに期待したい。


文/小田 香


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