松村北斗&上白石萌音の“カテゴライズできない関係性”に共感。映画ファンは三宅唱監督作『夜明けのすべて』をどう観た?
このようになりたい…人間味と温かさのあるキャラクターたち
この2人が働く、栗田科学の人々をはじめ、山添くんの元上司、恋人(芋生悠)、友人といった彼らを支える周囲のキャラクターそれぞれの優しさも心に染みる本作。なかでも多くのコメントが寄せられたのが、彼らをそっと見守る栗田科学社長(光石研)と、退職後も気にかけてくれる山添くんの前職の上司、辻本憲彦(渋川清彦)だ。
実は共に悲しい過去を背負っており、そのことをきっかけに知り合った知人でもある栗田と辻本。相手の気持ちを第一に考えられる人物で、山添くんと藤沢さんにも理解を持って接する。そんな温かみにあふれた2人の人柄に心動かされたという感想がずらり。
「こんなにも心優しい人に、私も関わり合って生きていけたらどんなに心穏やかな日常を送れるのだろうと思って、すごくうらやましかったです」(50代・男性)
「社長の理解する優しさがとても印象に残った。社長も上司もなにか抱えているものがあり、そのなかで、2人を支えていく姿がとてもよかった」(30代・女性)
「社長の目線がとても印象深かったです。山添くんと藤沢さんが歩み寄っていく姿を後ろから見守る姿に心を打たれました」(20代・男性)
また、症状が出た時に戸惑うでもなく、過剰に優しくするでもなく、自然に話を聞いてくれるベテラン女性社員ら、栗田科学の同僚たちについても、「落ち着いた対応やプラスのひと言の気遣いがすてきで、こんな人になりたいと思った」(30代・女性)、「パニック障害やPMSの症状が出る時も、理解ある対応をする彼らがすてき。優しい職場すぎて、うらやましい」(30代・女性)…と理想的な職場をうらやむ声が見受けられた。
孤独に光を当てる、三宅唱監督作品としての魅力
「原作と同じく、日陰にゆっくりと陽が当たっていくような雰囲気が映像化されていて、決して幸せいっぱいではなくても、幸せな気持ちが残る映画でした。毎日のなかで忘れている優しさを取り戻せるような気がしました」(20代・女性)と、原作ファンも太鼓判を押す映画『夜明けのすべて』。
原作の持つ魅力、キャスト陣の見事な演技はもちろんのこと、オリジナルの要素を加えながら丁寧に映像化した三宅唱監督による手腕が大きいだろう。三宅監督はこれまで、聴覚に障がいを抱える女性ボクサーを題材とした『ケイコ 目を澄ませて』(22)や、3人の男女のモラトリアムな青春がテーマの『きみの鳥はうたえる』(17)をはじめ、どこか疎外感を覚える人々の日常を描いてきた。
本作もまた、「様々な悩みを抱えながら生きている人たちだけではなく、人と人のつながりもうまく描かれているところが魅力に感じました」(30代・男性)、「生きづらさ、困難を抱えていても、地に足をつけて生きている感じがある」(20代・女性)とあるように、孤独や困難と折り合いをつけ、それでもどうにか進んでいく誠実な想いが込められている。
そんな作品の屋台骨を支えるのがナチュラルな映像。「下町を舞台に、都市の音と人の生活にまつわる音をとても丁寧にすくい上げる」(10代・男性)、「日常の切り取り方が美しい。当たり前の映像から、日常に当たり前の美しさがあることに気づかされた」(30代・女性)など、山添くんと藤沢さんのそれぞれの日々を切り取ったような誇張のない映像だからこそ、改めて日常の美しさを再確認したという声も散見された。
「作品を作品だと感じさせないナチュラルさがあると思います。自分の生きている世界の隣駅で起きていそうなリアルさが魅力的です」(20代・女性)
「フィクションなのに、ドキュメンタリーのような映画だと思いました」(40代・男性)
感動を押し付けようとすることなく、リアルな距離感を保って、人生を希望的に描く『夜明けのすべて』。「想像力を働かせて人と人との関わりを見直していきたい」(20代・男性)といった言葉からもわかるように、鑑賞後は人との接し方について自然と考えたくなるような、心を優しく揺さぶってくれる一作だ。
構成・文/サンクレイオ翼