『12日の殺人』ドミニク・モル監督が明かすキャスティング秘話!主演のバスティアン・ブイヨンは「すべてが役のイメージにぴったり」|最新の映画ニュースならMOVIE WALKER PRESS
『12日の殺人』ドミニク・モル監督が明かすキャスティング秘話!主演のバスティアン・ブイヨンは「すべてが役のイメージにぴったり」

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『12日の殺人』ドミニク・モル監督が明かすキャスティング秘話!主演のバスティアン・ブイヨンは「すべてが役のイメージにぴったり」

第32回東京国際映画祭で観客賞と最優秀女優賞の2冠に輝いた『悪なき殺人』(19)のドミニク・モル監督がメガホンをとり、第48回セザール賞で作品賞など6部門を制した『12日の殺人』(3月15日公開)。このたび本作から、主演のバスティアン・ブイヨンと、彼が演じた刑事ヨアンの自転車走行シーンについて語るモル監督のコメントを独占入手した。

ポーリーヌ・ゲナのノンフィクションに書かれた実在の事件を下敷きに、未解決事件に挑む刑事たちの姿を描く本作。フランス南東の地方都市グルノーブルで、10月12日の夜に帰宅途中の女性が何者かに火をつけられ、翌朝焼死体となって発見される事件が発生。地元警察ではヨアンを班長とする捜査班が結成され、地道な聞き込みから次々と容疑者が捜査線上に浮かぶのだが、事件は解決の糸口を見つけられないまま迷宮入りとなってしまう。

ヨアン役を演じセザール賞有望若手男優賞に輝いたブイヨンは、『悪なき殺人』に続いてモル監督とタッグ。「前作では純真で明るい憲兵役を演じてくれました。彼との仕事はとても楽しかったです」と、前作時を振り返るモル監督は、「ですが本作の脚本を書いている段階では、特に彼を意識してはいませんでした。自然体のキャラクターを描きたいので、執筆中は特定の役者のことをあまり考えないようにしているのです」と明かす。

【写真を見る】鬼才ドミニク・モル監督が描く“未解決事件”に飲み込まれる捜査官たちの珠玉のドラマ
【写真を見る】鬼才ドミニク・モル監督が描く“未解決事件”に飲み込まれる捜査官たちの珠玉のドラマFanny de Gouville [c] 2022 - Haut et Court - Versus Production - Auvergne-Rhône-Alpes Cinéma

それでもブイヨンを起用する案が浮上したのは脚本が完成したあとのことだ。「その案に惹かれ、スクリーンテストでバスティアン自身がそれを確信へと変えてくれました。優しさと憂鬱な重みの混ざった彼の醸しだす雰囲気と、感受性やまなざし、話すときのイントネーションなど、すべてが役のイメージにぴったりでした。口数が少ないけれど物語を動かすことのできる、周囲のキャラクターを受け止めるための容器のような存在であり、観る者は彼のなかに感情が流れ、それが表情にあらわれるのを感じることができるでしょう」。


そんなヨアンは劇中、捜査や事件の被害者クララの生前のことを考えて夜も眠れない日々を送ることになる。彼がなんとか精神の均衡を保とうとするために行なうのは、自転車競技場で同じ場所をぐるぐると走り続ける自転車走行。「原作では、クララの事件に関わっていない捜査官の1人が競技場のトラックで自転車に乗っていました。その描写に瞬時に惹かれ、映画で使いたいと考えたのです」と、モル監督はこの描写を入れた理由を説明する。

出口の見えない捜査に臨む捜査官たちの複雑な心理が、様々なかたちで表現されていく
出口の見えない捜査に臨む捜査官たちの複雑な心理が、様々なかたちで表現されていく[c] 2022 - Haut et Court - Versus Production - Auvergne-Rhône-Alpes Cinéma

「グルノーブルの近くのエイバンにある競技場で撮影をしたのですが、特に夜は美しく、非常に絵になる場所でした。自転車で競技場のトラックを走るのは道を走ることよりも難しく、バスティアンは急カーブのコーナーを回る特訓をしてから撮影に臨んでいました。完璧にマスターしていたようですが、何周も何周も走り続ける長いシーンを撮るのは肉体的にもきつかったと思います」。

劇中、何度も登場する自転車競技場での走行シーンに注目
劇中、何度も登場する自転車競技場での走行シーンに注目[c] 2022 - Haut et Court - Versus Production - Auvergne-Rhône-Alpes Cinéma

映画の序盤から何度も登場するこの自転車競技場での走行シーン。終盤にはその対比となるように自然のなかで自転車を走らせるシーンが登場することで、ヨアンの心の変化が表されている。ヨアンが自転車に乗るシーンに注目しながら、この複雑なキャラクターに挑んだブイヨンの緊迫感ある演技と、未解決事件にのめり込む捜査官たちのドラマをじっくりと堪能してほしい。


文/久保田 和馬

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