「ハリー・ポッター」「ファンタビ」シリーズの小道具制作を手掛けたピエール・ボハナにインタビュー!ダンブルドア校長室の裏側も紹介
「ぜひとも穴が開くほど見て楽しんで!」
「作品に貢献できる“すばらしい小道具”を作ること。それこそが、造形美術を担当する僕らの果たすべき役割。いくら汗水垂らして一生懸命作ったとしても、映画作りの工程においては、変更はつきものなんです。当初はフィーチャーされるべきはずものだったものが、途中で丸々カットされてしまうなんてことも日常茶飯事。苦労して作ったのに、いざ蓋を開けたらほとんど映画に映っていなかったとしても、それはもう仕方がない。もちろん『ここは絶対に映さないよ』と監督から最初に聞かされていたとしたら、僕らだってカメラに映らない部分までわざわざ作り込んだりはしないですよ(笑)。でも、大抵は現場に入るまでなにをどのアングルから撮ることになるかわからないから、決して気を抜くわけにはいかないんです。
監督や俳優はもちろんのこと、ほかの部門のスタッフたちも含めて、その空間に足を踏み入れる人になにかしらのインスピレーションを与えられるような小道具にしたいと常に考えています。彼らが実際に見て、触れて、『なるほど! 脚本のこのシーンに出てくるセットや小道具はこういうものだったのか!』と実感する。そして、彼ら自身のなかにもともとあったイメージが、それによってさらに膨らんでいくような。そんなものになったらいいなと思っているんです。そのためにも、スタッフやキャストとのコミュニケーションやディスカッションを常に大事するようにしています」と、映画作りにおける自らの役割を語った。
ちなみに、「スタジオツアーロンドン」がオープンした当初は、小道具のみならず、「すべて映画で使ったオリジナルのアイテムを展示すること」をコンセプトに掲げていたという。だが「映画の撮影期間中だけ十分なクオリティを保てればいい」という前提で作られた小道具の数々を、日々多くの人々が行き交うスタジオ内に、長期間に渡ってそのまま展示し続けることは、物理的に不可能であることがわかった。そのため、「より耐久性のある、より洗練されたデザインの小道具」に改良する必要があった。
「展示にあたっては、少しでも長持ちするような工夫や努力をしなければなりません。空気中のほこりの多くは、実は人間の皮膚からくるもの。見た目やデザインももちろん重要ですが、まずは、それらが影響を及ぼさないような素材選びをすることを心がけています。スタジオ内には毎日清掃を行うクルーもいますが、来場者が直接触れるものに関しては、数か月に一度は定期的に大がかりなメンテナンスをする必要があるんです」と、常にベストな状態で展示するうえでの苦労も明かしつつ、「映画作りにおいて、普段スタッフがどんな作業をしているのかを来場者の皆さんに理解してもらうことこそが、僕らの一番の望みなんです。『じっくり見られたら困る』『出来れば見ないで』なんてものは、ここにはなにひとつありません(笑)。ぜひとも穴が開くほど見て楽しんで!」と、茶目っ気たっぷりにアピールする。
原作の「ハリー・ポッター」シリーズには、「マホウトコロ」という日本を舞台とした魔術学校も登場する。過去にも別作品でのプロモーションで来日経験があり、「日本が大好きだ」というボハナに、もし映画化されるとしたら、どんな小道具が新たに生まれそうかと訊ねると、「それが実現したらどんなすばらしいか」と期待を込めながら、「日本には長い歴史があって、神話を始めとするオリジナルのストーリーも豊富ですよね。それに加えて、日本の職人たちにはたしかな職人技の数々が根付いています。魔法の世界には欠かすことのできない道具である箒や杖ひとつとっても、非常に繊細でクオリティの高い日本らしいものにできるのではないかと思います。いつか『マホウトコロ』の現場に呼ばれたら、すぐにでも“日本版ホグワーツ”の制作に取り掛かりたいですね」と意気込んだ。
取材・文/渡邊玲子