山崎貴監督、アカデミー賞視覚効果賞は「完全にゴジラのおかげ」お祝いに駆けつけた浜辺美波はオスカー像の重さに驚愕!
米・ハリウッドで開催された第96回アカデミー賞で視覚効果賞に輝いた『ゴジラ-1.0』(公開中)の受賞記念記者会見が3月12日に羽田空港で行われ、帰国したばかりの山崎貴(監督・脚本・VFX)、渋谷紀世子(VFXディレクター)、高橋正紀(3DCGディレクター)、野島達司(エフェクトアーティスト/コンポジター)が出席。サプライズでヒロインを務めた浜辺美波が祝福に駆けつけ、山崎監督らを驚かせた。
本作は、ゴジラのファンであることを公言している山崎監督が監督・脚本・VFXを務めた日本製作の実写版ゴジラ映画第30作。昨年11日3日“ゴジラの日”に封切られ、現在までの観客動員397万人、興行収入は60.8億円を突破。北米では邦画実写映画の興行収入記録を塗り替えるなど、世界各地でゴジラ旋風を巻き起こしている。
アカデミー賞で日本映画が視覚効果賞を受賞するのは、史上初という快挙。万雷の拍手に迎えられた山崎監督は、「どうなることやらと思いながら臨んだオスカー。最高の結果になれて、本当にいまはホッとしています」と笑顔。オスカー像は「想像を遥かに超える重さ」だといい、「緊張していたんですが、一瞬それを忘れるくらいの重さ。本当にいまオスカー像を持っているんだと思うとすごくうれしかった」と手にした瞬間を振り返った。視覚効果賞のプレゼンターとなったのは、アーノルド・シュワルツェネッガーとダニー・デヴィート。デヴィートからオスカー像を受け取った山崎監督は「シュワルツェネッガーさんからもらいたかったんですが…」と切りだしつつ、「もちろんダニー・デヴィートさんでもうれしいんですが。シュワルツェネッガーさんと握手ができたのでよかったです」と素直な胸の内を明かして会場の笑いを誘っていた。
渋谷は「獲った瞬間は、びっくりしちゃって。直前にテキーラが配られていたので、それもあってめちゃめちゃテンションが上がってしまいました」とにっこり。「シュワルツェネッガーさんから(オスカー像を)もらった」という高橋は、「目を見ただけでもいい人なのがわかりました」と目尻を下げた。「シュワルツェネッガーさんからもらいました」と続いた野島も、「手足が痺れた。感じたことのない痺れ。シュワルツェネッガーさんを見てわけがわからなくなったんですが、そのあとに山崎さんの英語のスピーチで」と笑いながら語ると、山崎監督が「なんで笑うんだよ!」とツッコミ。野島は「それを温かく見守ってくださっている、会場の皆さんの顔が忘れられない。本当にいい場所だなと感じました」と印象を話すと、山崎監督も「その空気がビシバシ伝わってきた。すばらしい場所」と同調していた。
ゴジラ映画でオスカーを獲得したことについて、山崎監督は「完全にゴジラのおかげ」と口火を切り、「ゴジラというキャラクターが大スターだったと改めて思い知らされた。ゴジラを持って歩いていると『ゴジラ!』と皆さんが言ってくださる。僕らは、ゴジラに連れて行ってもらった。ゴジラのVFXだからあの場所に立てた」とゴジラに感謝。さらに世界からVFXで注目されたことは「とてもうれしいこと」だという。少人数、低予算で同賞を獲得したことも話題となっているが、「視覚効果賞というのは、オスカーのなかでも聖域中の聖域。ものすごい予算をかけて、凝りに凝ったVFXがいっぱいあるなかでのベストという場所。僕らには挑戦権がなかった。夢見ることすら許されていなかったような場所。その門を開いてくれたのはうれしいこと。ハリウッドという場所の懐の広さ、深さを感じた。キャリアのなかでVFXを一番長くやり続けてきて、この場所があった」と喜びを噛み締めた。
勝因に話が及んだ場面でも、山崎監督は「少人数、少ない予算というのは、いままでのVFXの延長線上にあるものでは特殊なケース。それをおもしろがってもらえたんだろうなというのが一つ。あとは、VFXがいかに物語に貢献したかを大事にされているみたいで。本作はゴジラの恐怖感、絶望感みたいなものが話に非常に貢献している部分がある。そういうところが評価されたのかな」と思いを巡らせつつ、日本のVFXは「まだまだだなというのは改めて感じた」と刺激を受けることもあった様子。「ラッキーパンチだと思う。今回はいろいろな条件が重なって賞をいただけましたが、もぎ取りにいくにはまだまだ頑張らないといけない。中枢に近づいたからこそ、思うところがあった」と謙虚な姿勢を口にしながら、未来を見据えた。
授賞式のステージでは、昨年亡くなった映画プロデューサーの阿部秀司さんに向けて「やったよ!」と呼びかけた山崎監督。「僕のデビュー作からのプロデューサーで、一番の恩人。羅針盤のように方向を示してくれた」といつも叱咤激励してくれる存在だったという。アカデミー賞のステージにも「阿部さんと行きたかったな」とポツリとこぼし、「来ていたとは思いますが、いたらどんなに喜んでいただろう。阿部さんに『いいじゃん』と言わせることだけを考えている時期がある。阿部さんなしに映画を作っていくのが不安」と吐露する場面も。しかし「野望はいっぱいある」と力強く語り、「ハリウッドでそれなりの興行成績を上げられて、ちゃんと賞をもらえたということは、今後、日本映画の作り方が変わってくる可能性を秘めている。大リーグに野茂(英雄)選手が行けたとなった途端に、たくさんの選手が大リーガーになったように、これをきっかけにもっとワールドワイドな興行を目指した作品をつくっていく必要があるのかなと思う」と日本の映画界に変革が起きることを期待。「監督賞、作品賞への野望は?」と聞かれると、「賞を目指す映画って、あまり好きじゃない。あまりそういうことを考えずに作りたい。徹底的に一生懸命に作っていけば、そういう道が開けるのかなと思う。あまり目指さずにやっていきたい」と真摯に打ち込む覚悟をにじませた。
最後には、浜辺がサプライズで駆けつけて「おめでとうございます!」と花束をプレゼントするひと幕もあった。山崎監督からオスカー像を手渡されながらも、「思っていたよりすごく重たいですね!」と目を丸くし「怖い!」と傷つけてしまうことを恐れてすぐさま監督に返還した浜辺。「皆さんの喜んでいる表情と、監督のすばらしいスピーチに感動しました」と授賞式の感想を述べると、再びスピーチに触れられた山崎監督は「うるさいな!」と照れ笑い。続けて浜辺が「少しでも携われて幸せ」と心を込めると、山崎監督は「あまりにもうまくいきすぎるのでちょっと怖い。スタッフ、キャストの皆さんの努力がゴジラをここまで押し上げてくれた。ここを到達点にしないで出発点にして、さらにいろいろなことに挑戦してきたい」と宣言して大きな拍手を浴びていた。
※高橋正紀の「高」は「はしごだか」が正式表記
取材・文/成田おり枝