伝説のスター、松田優作!その功績を記念碑的作品『人間の証明』『探偵物語』と共に振り返る

コラム

伝説のスター、松田優作!その功績を記念碑的作品『人間の証明』『探偵物語』と共に振り返る

不器用だけど優しく、ユーモラスな探偵役が新鮮だった『探偵物語』

現実から夢の世界へと入り込んでいく大正期の劇作家を演じた、鈴木清順監督の『陽炎座』(81)をプロローグとして、83年には森田芳光監督と組んだ『家族ゲーム』に主演。普通のサラリーマン家庭に不穏な空気を持ち込む風変わりな家庭教師を、ユーモアを交えて演じ、松田はこの年の映画賞で主演賞を総なめにした。これによってアクション俳優のイメージから完全に脱し、演技派として誰もが認める存在になった。

この時期に松田が出演したのが、赤川次郎原作、根岸吉太郎監督による角川映画『探偵物語』である。アメリカに旅立つ、薬師丸ひろ子扮する女子大生のボディガードを依頼された松田演じる探偵が、殺人事件に巻き込まれ、事件の究明に乗りだすミステリーである。松田はこれまでの肉体派の探偵役とは違い、どこか不器用でユーモラスな男を演じている。年下の女性の気持ちに寄り添っていく人間的な柔らかさが、ここでの彼の魅力だ。今回のBlu-rayでは、作品本来の色彩設計の復元を目指したニューマスターを作成。印象的な主演2人のキスシーンも含め、公開当時の色彩が味わえるソフトになっている。

【写真を見る】松田優作が薬師丸ひろ子演じる女子大生に振り回される探偵を好演した『探偵物語』
【写真を見る】松田優作が薬師丸ひろ子演じる女子大生に振り回される探偵を好演した『探偵物語』[c]KADOKAWA 1983

演技の深さ、肉体表現のすべてをぶつけた気迫に圧倒される『ブラック・レイン』

『時をかける少女』(83)と2本立てで大ヒットした『探偵物語』のあと、松田は再び森田監督と組んだ『それから』(85)、吉田喜重監督の『嵐が丘』(88)、深作欣二監督作で吉永小百合と共演した『華の乱』(88)と文芸大作に主演する傍ら、『ア・ホーマンス』(86)では初の映画監督にも挑戦。表現者としての幅を広げ、演技者としても深度を増した彼が次に向かったのはハリウッドだった。

リドリー・スコット監督、マイケル・ダグラス主演で高倉健と共演した『ブラック・レイン』(89)で、松田はマイケルと高倉の刑事コンビが追う凶悪犯の佐藤を演じた。刑事たちを嘲笑うかのような不敵な存在感と、非情さに徹した鋭いアクション。これまで培ってきた演技の深さと肉体の表現をすべてぶつけたような気迫が、佐藤役の彼にはある。だがこの時の松田は、すでに病に侵されていた。『ブラック・レイン』は日本で1989年10月7日に公開されたが、松田は公開中の11月6日に亡くなった。


稀有なアクション俳優から演技派俳優へ。そして世界から称賛を浴びる直前で、突然松田優作は姿を消した。彼が伝説的なのは、着実に高みを目指して自分のエネルギーを燃やし続えたその俳優人生の歩みもそうだが、人生の幕引きが衝撃だったことも大きい。そんな彼の代表作『人間の証明』と『探偵物語』の2本によって、松田の魅力を再認識してもらえるとうれしい。

文/金澤誠

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