松田美由紀、松田優作生誕75周年記念上映でしみじみ「優作がやりたかったものを追いかけている」
松田優作生誕75周年記念特集上映「角川シネマコレクション 松田優作の狂気」の公開記念トークショーが3月23日、角川シネマ有楽町にて開催され、松田美由紀が登壇。夫、松田優作との出会いから、愛され続けるスターの魅力を語った。
冒頭の挨拶で「優作をスクリーンで観れる。こういう機会はすごくうれしい!」と笑顔の松田は「スクリーンのなかにいる優作が本物の優作。スクリーンで観ていただくのが一番うれしいです」と観客に感謝。ドラマ「探偵物語」での出会いを振り返り、「私が一目惚れをしてしまいまして。タラバ蟹みたいに足が長くて(笑)。こんなに足が長い人見たことない!と本当にびっくりしました」とニコニコ。びっくりと同時にドキッとしたそうで「音が鳴るくらい“ドキッ”として。不思議だけどこの人となにかなるって気がしました。そうしたら何十年も付き合うことになってしまって。人間ってすごいなって思います」と運命の出会いだったと明かす。
運命の出会いではあったものの、撮影初日は当時新人だった松田が遅刻をするハプニングもあったと苦笑い。「渋谷の映画館での撮影だったのですが、場所を間違えて違う映画館に行って、新人なのに遅刻しちゃって。監督はせっかちで知られていた村川透監督で、めちゃくちゃ怒られて(笑)。でも、頭のなかでは主役に謝りに行かなくちゃって。いまだったらセクハラとか言われちゃうかもだけど、謝りに行った私を優作はみんながいる前でぎゅっと抱きしめて背中をポンポンとして、『よし、行こう!』と言ってくれて。それで落ち着くことができました」と松田の気遣いに触れる。MCからの「ドラマではコケティッシュな美由紀さんが優作さんを翻弄するような役でしたが…」とのコメントに「裏では私がドキドキしていました!」と松田の対応にときめいていたと微笑んだ。
松田優作は裏表のない人だったという。「家でも外でもずっと松田優作。すごく神経質だったし、本当に大変でした」としみじみ。仕事に入ると役に入ってしまい「とにかくいつも役に集中しているから本当に怖くて(笑)。全部準備をして『おかえりなさい』と出迎えないとダメ。私より優作が先に家に帰ってこようもんなら『なにやってたんだ!』ってなる。そういう意味でもドキドキしていました」とニヤニヤ。「当時は女性が男性に合わせるのが当たり前の時代。父も九州男児でそういうタイプだったから、こんなものかなって。三つ指ついて料理はパッと出すみたいな。鍛えられました」と懐かしむ。結婚生活が続けられたのは「優作が裏表のない人だったから。それがすごく誠実に見えたし、続いた鍵だったと思います」とうれしそうに話し、「20歳で龍平が生まれて、28歳で未亡人に。でもスタートが早かったから、長く一緒にいられて良かったと思います」と若くして出会った運命の人に思いを馳せた。
松田優作が亡くなった後も、アートディレクションなどでさまざまな企画に携わっている。「普通だったら夫が亡くなって妻がしゃしゃり出るのはカッコ悪いと思うけれど、私と優作の関係性ではそんなことはどうでもよくて。一緒にものづくりしているという感覚がものすごく強いんです。優作だったらこう思うだろうな、こうしたいだろうなと思いながらものづくりをしている感覚がずっと続いている。優作と共に生きているようなところがあります」といまもなお、夫婦一緒に活動している感覚があるそう。「すごく悲しいのは、龍平が6歳、翔太が4歳、ゆう姫が2歳で亡くなったので、子どもたちが優作のことをあまり覚えていないこと。私しか覚えていないから、ちょっと寂しい。子どもたちとお父さんの話ができれば、また違うのだろうけれど…」と残念がりながらも「私は優作がやりたかったものをいまでも追いかけているだけ。ただそれだけなんです」と、現在進行形で続く松田優作との関わりを解説した。
磯村勇斗、永山瑛太らが尊敬する俳優として松田優作の名前を挙げる。また、本特集上映の初日には、新潟から20歳の4人組がわざわざ映画を観に来たこともMCから伝えられた。「優作を見て思うのは、本気で生きていくというのは本当に素敵なこと。誰もができそうなことで、できることではない。優作はただただ芝居をすることに純粋に生きた人。映画のクオリティなどをすっ飛ばして、優作の純粋性がピカピカと光っている印象を受けます。それを若い人がキャッチするのかな。時代が変わっても、あのピカピカの光はずっと続いていく。優作を見てその光を感じるし、それをずっと伝えていきたいと思います」と今後も松田優作の魅力を伝え続けていくと誓った。
「生誕75周年の特集上映を、優作も喜んでいると思います。やっぱり優作が本当にすごいのだと思います。何十年経ってもこうやって上映されたり、いまもたくさんの企画が立ち上がっています。優作の純粋性を観に、また来ていただきたいと思います」と感謝しながら呼びかけ、最後に「子どもたち、龍平、翔太、ゆう姫もよろしくお願いいたします!」と母の顔を見せ、トークイベントを締めくくった。
取材・文/タナカシノブ