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あなたは正気を保っていられるか…?観る者の倫理観、道徳心を揺さぶる狂気の映画たち

コラム

あなたは正気を保っていられるか…?観る者の倫理観、道徳心を揺さぶる狂気の映画たち

内気な青年の秘めた欲望が暴かれだす『マンティコア 怪物』

対照的に4月19日(金)公開のスペイン映画『マンティコア 怪物』は、現実味のある物語。主人公フリアン(ナチョ・サンチェス)は人付き合いの苦手な青年。ゲームのクリーチャーデザインの仕事をしており、自宅でVR用ヘッドセットを装着して作業に勤しんでいる。ある日、アパートの向かいの住居で火災が起こり、彼は部屋に閉じ込められていた幼い少年を救出。やがて行きつけのレストランで件の少年を目撃したことから、フリアンの秘密の欲望に火がつく。一方で、フリアンは同僚の友人で、アート好きな女性ディアナ(ゾーイ・ステイン)と惹かれ合う。ところが、この恋は予期せぬ事態によって翻弄されていく。

ゲームのクリーチャーデザインをしている人付き合いが苦手なフリアン(『マンティコア 怪物』)
ゲームのクリーチャーデザインをしている人付き合いが苦手なフリアン(『マンティコア 怪物』)[c]Aquí y Allí Films, Bteam Prods, Magnética Cine, 34T Cinema y Punto Nemo AIE

『マジカル・ガール』(14)で賞賛されたカルロス・ベルムト監督が、募りゆくフリアンのフラストレーションを緻密に描写。絶望の果てに狂気の行動に出てしまったフリアンの未来に待つのは、幸福か、不幸か?その衝撃と、多様に解釈できる結末の余韻をじっくり味わってほしい。

善良な家族に起きた悪夢のような休暇…『胸騒ぎ』


最後に紹介するのは、デンマークとオランダ合作の『胸騒ぎ』(5月10日公開)。デンマークに住む男とその妻、幼い愛娘がバカンス先でオランダ人の家族と意気投合。帰国後、その一家からオランダの自宅への招待状が届き、彼らはそこで週末を過ごすことに。オランダ人一家は相変わらずフレンドリーだったが、ベジタリアンの妻に肉を勧めてきたり、娘を床の上に寝させたりと、どうも様子がおかしい。少しずつ気味の悪さが募っていき、デンマーク人一家はことを荒立てないように、そっとそこをあとにしようとするが、真の悪夢はその先に待っていた。

気づかれないようにこっそりと帰ろうとするが…(『胸騒ぎ』)
気づかれないようにこっそりと帰ろうとするが…(『胸騒ぎ』)[c] 2021 Profile Pictures & OAK Motion Pictures

サンダンス映画祭で賞賛され、ホラーの分野で鳴らすハリウッドのプロダクション、ブラムハウスによるリメイクが決定。それだけでも内容の凄みは保証されたようなもので、本作でのオランダ人一家の狂気の秘密は衝撃的だ。一方のデンマーク人一家は一見すると善良で、かわいそうな被害者に思える。しかし、彼らの善意は本物なのだろうか?うわべの善良さを取り繕い続けることこそ、狂気なのでは?そんな思考を促す点でも見応えのあるスリラーだ。

注目の5作品を紹介したが、どれも個性的な狂気がにじみ出ており、それぞれに恐怖を感じさせずにおかない。ひと口に狂気といっても、そこに至るプロセスは多種多様。そして、どんな人間でも狂気に囚われる危うさを胸の内に秘めている。これらの映画を観て、正気を保つ秘訣を考えるのも一興、か!?

文/有馬楽

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