「五臓六腑で体感してほしい」ブランドン・クローネンバーグ監督が語る『インフィニティ・プール』の裏側

インタビュー

「五臓六腑で体感してほしい」ブランドン・クローネンバーグ監督が語る『インフィニティ・プール』の裏側

「ミア・ゴスは限界を突破する度胸を持ちながら、微妙なニュアンスも表現できる」

本作の魅力の一つがクセモノ揃いの俳優陣。悩み多きジェームズ役で体当たりの熱演を見せる『ノースマン 導かれし復讐者』(22)のアレキサンダー・スカルスガルドを筆頭に、誰もがすばらしい存在感を発揮しているが、やはり圧巻はワイルドなミア・ゴスだ。彼女は罪を巡る物語のなかで欲望のままに行動し、受け身のジェームズを混沌の泥沼に導く悪魔的な“運命の女”である。

【写真を見る】ミア・ゴスが、過激なファム・ファタール役で体当たりの熱演を披露!
【写真を見る】ミア・ゴスが、過激なファム・ファタール役で体当たりの熱演を披露![c]2022 Infinity (FFP) Movie Canada Inc., Infinity Squared KFT, Cetiri Film d.o.o. All Rights Reserved.

「ミアはエモーショナルな役者で、カメラの前で限界を突破する度胸を持ちながら、微妙なニュアンスも表現できる」と監督は絶賛。特に怖気づいたジェームズを挑発する場面では、感情を高めるウォーミングアップの時間を作り、芝居が爆発寸前となる頃合いで本番に臨んだ。

「もう、好き放題にやってもらいました。過激すぎたら編集でカットすればいいので」。その結果には監督も大満足。ただ、どんなに暴走してもカットの声がかかれば普段のミアに戻る。「素顔の彼女はとても礼儀正しい人ですよ」と、付け加えてくれた。

「脳からあふれる感情を、五臓六腑で体感してもらいたい」

個性豊かなクリエイターたちとのコラボレーションから、独自の世界観が生まれる
個性豊かなクリエイターたちとのコラボレーションから、独自の世界観が生まれる[c]2022 Infinity (FFP) Movie Canada Inc., Infinity Squared KFT, Cetiri Film d.o.o. All Rights Reserved.

そんなミアが捕食者のように、ジェームズと初めて肉体的な接触を持つ場面は度肝を抜かれること確実だ。「日本では修正されてるの?」と監督も興味深そう。「ボカシは仕方ないけど、男性器は作り物ですよ。特殊効果のダン・マーティンはさまざまな映画にシリコン製の男性器を提供している性器作りの達人で、彼の部屋のクローゼットには男性器がゴロゴロしまってあるんです」。

クローネンバーグ監督の周辺には独創的な作家が集っているようだが、撮影のカリム・ハッセンも、カルトな監督作『大脳分裂』(00)で知られる異才だ。デビュー作の『アンチヴァイラル』(12)以来、ずっと組んでいる彼をクローネンバーグ監督は“マッド・ジーニアス”と呼ぶ。2人は撮影に入る前に視覚言語を踏まえたショットリストを作りつつ、何か月も映像実験に没頭する。これが楽しくてやめられないそうだ。その成果は本作の後半に展開する幻覚シーンで存分に発揮されている。


『インフィニティ・プール』は、4月5日(金)公開
『インフィニティ・プール』は、4月5日(金)公開[c]2022 Infinity (FFP) Movie Canada Inc., Infinity Squared KFT, Cetiri Film d.o.o. All Rights Reserved.

また、本作ではジェームズの脳の処理能力を超えて、暴力の衝撃が襲ってくるので編集のカッティングは素早くした。一方で『ポゼッサー』(20)の主人公は暴力にどっぷり漬かった殺し屋なので、バイオレンス表現には中毒性と官能的なニュアンスをこめた。「登場人物の体験をそのままダイレクトに味わってほしい。感情が脳からあふれるのを主観的に表現し、五臓六腑で体感してもらいたいですね」。

脳内から肉体へ、イメージからフィルムへ。頼もしい共犯者たちと共に、無限の創作欲を探求するクローネンバーグ監督の旅はまだまだ続きそうだ。

取材・文/山崎圭司

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