アカデミー賞Wノミネート『パストライブス／再会』長回しで挑んだ奇跡のラストシーン撮影

『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』(22)のA24と、『パラサイト半地下の家族』(19)の韓国CJ ENMが初の共同製作で贈る『パストライブス／再会』(4月5日公開)。このたび、本作より新たな場面写真が解禁となった。

【写真を見る】暗い明け方に見つめ合う2人の時間を切り取ったクライマックスシーン [c]Twenty Years Rights LLC. All Rights Reserved

本作は、ソウルで初めて恋に落ちた幼なじみの2人が、24年後の36歳になってニューヨークで再会する7日間を描くラブストーリー。物語のキーワードは「運命」の意味で使う韓国の言葉“縁(イニョン)”だ。見知らぬ人とすれ違った時、袖が偶然触れるのは、前世(PAST LIVES)でなにかの“縁”があったから。久しぶりに顔を合わせた2人は、ニューヨークの街を歩きながらこれまでの互いの人生について語り合い、過去自分たちが「選ばなかった道」に想いを馳せることに。

本作のメガホンをとり、長編映画監督デビューを飾ったセリーヌ・ソンは、12歳の時、家族とともにソウルからトロントへ移住し、その後ニューヨークに移ったという体験の持ち主。本作では自身の体験を元にオリジナル脚本を執筆し、デビュー作ながら既に各国の映画賞で246のノミネート、88の受賞を果たした。ゴールデン・グローブ賞では、作品賞、監督賞、脚本賞、そして主演女優賞を含む5部門にノミネート。アカデミー賞では作品賞、脚本賞の両方にノミネートされた。

今回、本作のクライマックスでもあるとっておきのシーンを切り取った場面写真が特別に公開された。ニューヨークで再会の数日間を過ごすノラ(グレタ・リー)とヘソン(ユ・テオ)。まだ暗い明け方に見つめ合う2人だが、その間に流れる時間は途方もなく長く感じられる。お互いに視線をそらさずに向き合うが、口にする言葉は無い。幼馴染という関係を変えるのには十分な時間だったはず。ノラを演じたリーは「あのシーンだけでも1本の映画になるくらいだと思いました」と撮影を振り返っている。なんとこのシーンは長回しの1テイクで撮り切ったのだという。「どのような撮影になるのか事前にしっかりと教えてもらっていませんでした。でもそれがセリーヌの素晴らしいところで、彼女には決断力があって何をどうしたいのか明確に分かっていたんです」とリーは語っているが、実際に彼女とヘソン演じたテオは、お互いに向き合うという演出と、カメラの位置だけは分かっていたものの、それ以外はなにも知らされていなかったそう。テオにとってもこのシーンの撮影は印象深かったようで、ソン監督の演出については「これだ！と監督が思える演技ではないといけないと考えていました。なので、自分の持っているものをこのシーンに全て出し切りました。言えないこと、見せないことにとても価値があると思ったからです。このシーンには、完全にセリーヌの監督としての才能が表れていると思います」と、その魅力に触れた。

まるでドキュメンタリーのように、その場で生まれる心の動きをリアルに切り取ったラストシーン。ラブストーリーを超え、傑作へと昇華した本作をぜひ劇場で目撃してほしい。

文/鈴木レイヤ