『パスト ライブス/再会』グレタ・リーにインタビュー「静ひつな演技で愛や運命を表現できれば、時間の流れという概念も伝わる」

インタビュー

『パスト ライブス/再会』グレタ・リーにインタビュー「静ひつな演技で愛や運命を表現できれば、時間の流れという概念も伝わる」

「24歳と36歳のシーンは、まったく別の映画だと考えて演技しました」

劇中のノラは「韓国語で夢をみる」と話すが、リーも「夢は英語と韓国語の両方」と打ち明ける。英語と韓国語の両方のセリフをこなすことに加え、ノラ役には、もうひとつ高いハードルがあった。12歳で別れた初恋の相手ヘソンと24歳の時にコンタクトが取れ、36歳で再会するという物語なので、24歳と36歳のノラを演じる必要があったのだ。

24歳のノラも違和感なく演じきったリー
24歳のノラも違和感なく演じきったリー[c] Twenty Years Rights LLC. All Rights Reserved

「24歳と36歳のシーンを演じる際、まったく別の映画だと考えました。特殊効果やメイクには一切頼れなかったからです。人生の特定の時期は、そこで出会った人も含めて独自の世界を形成するので、そこに自分のアイデンティティを投影する感覚です。繊細で静ひつな演技で愛や運命を表現できれば、時間の流れという概念も伝わるのではないでしょうか。でも実際に10年前の自分って、そんなに本質は変わっていないですよね?そのように捉えることも、演技に役立ちました」

「最も演技が難しかったのは、あのオープニングのシーン…」

演技という点では、共演者との相性も重要だったと思われる。ヘソン役のユ・テオは現在、韓国を拠点に『別れる決心』(22)やドラマ「その恋、断固お断りします」などで活躍している。そしてノラの夫であるアーサーを演じたのは『ファースト・カウ』(19)などのアメリカ人俳優、ジョン・マガロだ。

ノラの初恋の相手、ヘソン役を演じた韓国系ドイツ人のユ・テオ
ノラの初恋の相手、ヘソン役を演じた韓国系ドイツ人のユ・テオ[c] Twenty Years Rights LLC. All Rights Reserved

「テオは韓国系のドイツ人で、私たちが育ったカルチャーは違います。でもその違いが、演じるキャラクターに埋め込まれていました。驚いたのは、テオが私から引き出してくれた感覚です。『もしアメリカ文化とつながりがなければ、私はどんな人生を送っただろう』と、テオが感じさせてくれたのは事実です。またジョンとの共演では、ノラの新たなダイナミズムが生まれたと感じます。ヘソンとアーサーは対照的な立場なので、ノラ役の私も異なる対応ができたのでしょう。ソン監督は、撮影中にテオとジョンが会うことを禁じていました。劇中の出会いのシーンが、実際に彼らの初対面だったのです。こうした配慮によって、私もアメリカ人の夫と、韓国の初恋の相手に対するノラのアイデンティティを形成することができたと思います」

自然体な演技に思わず引き込まれるアーサー役のジョン・マガロ
自然体な演技に思わず引き込まれるアーサー役のジョン・マガロ[c] Twenty Years Rights LLC. All Rights Reserved

2人の男性の間で揺れるノラ。その心は、『パスト ライブス/再会』の冒頭のバーのシーンで、カメラを見つめる表情が暗示する。ノラの表情に込めた想いを聞くと、リーは次のように答える。

「多くの人は、本作のラストシーンが最も難しい演技だと思うかもしれません。しかし実際に大変だったのは、あのオープニングです。あのノラの表情は、これから映画で起こることを予見しつつ、そのミステリーに観客を誘う意味も込めなければなりませんでした。私はカメラに向かって、謙虚な気持ちでそれを表現しました。映画のタイプはまったく違いますが、ラース・フォン・トリアー監督の『奇跡の海』が頭をよぎりました。あの映画が第四の壁を壊し(登場人物が観客に向かって語りかけること)、人間の狂気や喜びを描いたように、私がカメラを見つめるだけで作品のテーマの一部でも伝えられていたら幸いです。映画の始まりとラストを結びつけるうえで、あれは重要なカットになりました」


リーが最も難しいと語ったバーでのオープニングシーン
リーが最も難しいと語ったバーでのオープニングシーン[c] Twenty Years Rights LLC. All Rights Reserved

ノラと自身の共通点はどこにあるのか。彼女の私生活のパートナーは脚本家で、ノラの夫、アーサーも作家だが、「たしかに私の夫は白人です。彼とは大学時代に知り合って、いまは2人の子どもがいます。でも韓国系として経験してきたことはノラとずいぶん違いますし、重なる部分は少ない気がします」と、自分と切り離し、ゼロからキャラクターを作り上げたことをリーは強調する。


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