山崎賢人と佐藤嗣麻子が明かす、『陰陽師0』で作り上げた新しい“安倍晴明”「僕と晴明は似ているかもしれない」
「山崎さんは走るのが速すぎて、スタッフが誰も追いつけないんですよ(笑)」(佐藤)
――山崎さんのアクションも見どころですが、これまでやってきたアクションとはだいぶ雰囲気が違う印象でした。
山崎「無重力ではないけれど、戦って倒しているというのではなく、いなしているというか。そこがすごく晴明っぽいと思いました。人間離れしていて、ちょっと浮いてジャンプして捕まえていくとか、すごく楽しかったです」
佐藤「ほかの作品の『ぶっ倒してやる!』みたいな時のアクションとはどう違うの?なにか気持ちとかが違うみたいな?」
山崎「全然違いますね。相手を倒さなければいけない戦いのシーンでは『倒してやる!』と目の前の相手を目がけて突き進む感じだけど、晴明の場合は『全然、倒せるけれど?』みたいな感じでちょっと余裕がある感じです。目の前の相手は見ていなくて、例えばその先の助けたい対象である博雅に気持ちが向かっています。その場のことを考えるのではなく、常に先を見越して前に進んでいる印象があります。そういう気持ちでのアクションになっています」
――フィギュアスケートをイメージしたアクションシーンとのことでしたが、佐藤監督のオーダーだったのでしょうか?
佐藤「普段はもっと重力感を出したり、ワイヤーを使ってズンと落とすみたいな演出をしたりするのですが、今回の場合は晴明が呪術師であること、そして“狐の子”のイメージもあるので、『重力はない感じで』とリクエストしました。ちょうどオリンピックの時期で、羽生結弦さんのスケートを見たアクション監督がひらめいたらしいです」
山崎「アクションのビデオコンテを見た時、すごくおもしろいなと思いました。でも、演じる時にはスケートはそこまで意識しなくてもいいかなって。浮いているような動きは氷上だからできることで、実際の晴明は地上で戦うので…」
佐藤「砂利の上でね(笑)」
――靴が違うだけでも変わりそうですね。
山崎「そうなんです。だから、氷の上でやるフィギュアスケートを砂利の上で、平安時代の衣装でのアクションに変換していることがおもしろく感じたし、晴明ならこの動きはありかもと納得できました」
――晴明のアクションとしてしっくりくる感じでしょうか。
山崎「ですね。晴明のキャラクターにも衣装にもすごく合っていたと思います。揉み合って殴ってみたいなアクションだったら、あちこちひっかかったり、破けたりしそうだし」
佐藤「回転したりすると、衣装がふわっとなってすごく綺麗だったよね?」
山崎「すごく合っていたと思います。ただ、さばくのは結構大変でした…」
佐藤「袴がよく引っかかっていたね(笑)」
山崎「裾を踏んでしまって。烏帽子の高さも結構あるので、ぶつからないように気をつけて動くのが意外と大変でした」
佐藤「でも、ものすごく動きが上手だった!」
山崎「平安時代の人の動きに見えるよう、腰から落としてぶつからないように意識して。あとはやっぱり走るのが大変でした」
佐藤「かなり走らせたけれど、普通はあの装束で走ることはないからね」
山崎「火の龍から逃げる時の全速力の走りはどうしようか、結構考えました」
佐藤「あと山崎さんは走るのが速すぎて、スタッフが誰も追いつけないんですよ(笑)。全速力に見えるように速度を落としてとお願いはしたものの、すごく難しかったと思います。今回、いろいろ難しいリクエストをした気がします」
「今回の晴明ってちょっと僕と似ているかもしれないですよね」(山崎)
――いろいろと難しいリクエストをするなかで、佐藤監督が感じた山崎さんのすごさを教えてください。
佐藤「実はいろんなことをやっているのだけど、すべてさりげないところ。さりげなさすぎて現場では気づかないこともありました。編集しながら『すごいことやっている!』って驚いたこともたくさんあります。例えば、最後のバトルシーン。無表情っぽく見えるけれど、無表情とは違う。微妙な表現がすごくうまいと思ったし、あのシーンは本当にかっこよかった」
山崎「よかった。うれしいです!」
佐藤「晴明は人間離れしているので瞬きをしないようにお願いしました。スモークをいっぱい焚いているシーンだったから、目が痛かっただろうし、すごく大変だったはず。地味で地道な努力をしてくれる人だと思ったし、表面には出さないけれど、実はかなりの負けず嫌いなのかなと思ったりもしました」
山崎「晴明は感情をわかりやすく出す人ではない。静かなる怒りのようなものは絶対出したいなと思っていました」
佐藤「晴明の怒り、すごくよく出ていたし、本当にかっこいいシーンになりました。みんなが見たことのない安倍晴明、山崎さんならではのかっこよさが出ていると思います。山崎さんじゃなかったら、あのちょっと人間離れした感じは出なかったかもしれない。もうちょっと生っぽくなったんじゃないかなって。この世とあの世の間くらいにいる人、その感じは山崎さんだから表現できている感じがします」
山崎「ありがとうございます。なんか、今回の晴明ってちょっと僕と似ているかもしれないですよね」
佐藤「呪術監修の(加門)七海さんも、山崎さんは魂を半分どこかに置いてきている感じってずっと言っていて。そういう感じがあるなと私もずっと思っていました」
山崎「それは晴明としてはOKという理解で大丈夫ですか?」
佐藤「もちろん!」
山崎「よかった(笑)」
佐藤「ほかの役者さんは魂を半分置いてこない。みんなちゃんと魂が入った状態で来る!」
山崎「でも晴明としては大丈夫なんですよね?」
佐藤「大丈夫、大丈夫。完璧です!(笑)」
取材・文/タナカシノブ
※山崎賢人の崎は立つ崎(たつさき)が正式表記