『陰陽師0』佐藤嗣麻子監督と夢枕獏が語り合う、お互いの作品の魅力「獏さんの文章は、改行がカット割りに近い感覚」

インタビュー

『陰陽師0』佐藤嗣麻子監督と夢枕獏が語り合う、お互いの作品の魅力「獏さんの文章は、改行がカット割りに近い感覚」

夢枕獏の小説「陰陽師」を原作に、平安時代に実在した“最強の呪術師”安倍晴明の知られざる学生時代を描く『陰陽師0』が公開中だ。山崎賢人が主人公の安倍晴明、源博雅を染谷将太が演じ、安藤政信、國村隼、小林薫など豪華俳優陣が出演しているのも話題となっている。

メガホンを取ったのは、「アンフェア」シリーズや『K-20 怪人二十面相・伝』(08)などで知られる佐藤嗣麻子。MOVIE WALKER PRESSでは、長年の友人であるという佐藤監督と夢枕に直撃インタビュー!お互いの作品の魅力から続編の構想までお届けする。

本作の舞台となるのは平安時代。陰陽師は呪いや祟から都を守る役割を果たしていた。陰陽師の省庁であり学校でもある「陰陽寮」の学生、安倍晴明(山崎)は、呪術の天才ながらも陰陽師に興味を示さず、周囲から距離を置かれる存在だった。ある日、貴族の源博雅(染谷)から皇族の徽子女王(奈緒)を襲う怪奇現象の解決を依頼される。晴明と博雅は衝突しながらも真相を追うが、ある学生の変死をきっかけに凶悪な陰謀と“呪い”が動き出す。

「獏さんの『陰陽師』は、『晴明が最終的に博雅に救われる』話だと思っている」(佐藤)

晴明と博雅のバディムービーとしても魅力な『陰陽師0』
晴明と博雅のバディムービーとしても魅力な『陰陽師0』[c]2024映画「陰陽師0」製作委員会

――佐藤監督と夢枕先生は、かなり昔から「陰陽師」の映画化のお話をされていたそうですが、今作で晴明と博雅の出会いを描くことにした理由を教えてください。

佐藤「もともと私が、晴明と博雅の出会いを観てみたいこともありました。原作の晴明たちは40代ぐらいの設定ですが、この晴明はいろいろと映像化されきったように感じていたので、目線を新しくして若い2人を描こうと考えました」

――本作は佐藤監督が脚本も手掛けていますが、夢枕先生の原作から新たにイメージをして作り上げたものなのでしょうか。

佐藤「獏さんの『陰陽師』は、『晴明が最終的に博雅に救われる』と私は思っているので、博雅が晴明の唯一の弱点であることや、原作での2人の関係性に行き着くようにもちろん描いています。物語はオリジナルのところがあるので、『この登場人物たちはどう会話するのか?』ということを想像していると、それに付随して『こういう画が作りたいな』とビジョンが浮かび上がるので、それを基に脚本を作り上げていきました」


――実際に完成した本編を観て、夢枕先生はいかがでしたか?

夢枕「映画については『若い晴明と博雅はこういうふうにやるのかな?』と、映像を観る前に勝手に思い描いていたのですが、それよりもずっといい晴明と博雅だったと思いましたね。青春映画としてよくできていて、ここまではやるだろうと思っていたところの、もう一つ上のステージの仕あがりになりましたね。呪術の描き方についても、きちんとルールがありつつ見せ場となる派手なシーンも作っていて、すごくいいバランスでいろんなものが散りばめられていました」

【写真を見る】本作オリジナルの呪文を山崎賢人が読み上げる!ところでどうして呪文は言葉にするの?
【写真を見る】本作オリジナルの呪文を山崎賢人が読み上げる!ところでどうして呪文は言葉にするの?[c]2024映画「陰陽師0」製作委員会

――夢枕先生から佐藤監督への要望は、「呪文は口から出すこと」だったそうですが、どうして呪文を言葉にしなければいけないのでしょうか?

佐藤「実は言葉にしなくても大丈夫なんですよ」

夢枕「呪文っていうのは声に出さなくてもいいんだけど、結局『文章』や『言葉』がないと、脳が“宇宙”を掴むことができないんですよ。例えば僕らは、“愛”という『文章』や『言葉』を使うけれども、これは形がないものを捉える時に便利なんです。“愛”という『言葉』がないうちは、ほぼ“愛”がないも同然なんだよね。自分のなかの『これはなんだろう』という気持ちに対して、誰かが“愛”と言った時に、モヤモヤしたいろんな『言葉』が人の気持ちまでもそこに絡め取られるんですよ。数学も『言語』という意味でこれと同じことなんです。“宇宙”や“現象”、“環境”、そして”自分の心“まで“呪”をかけていくということになっていくんですよ」

佐藤「でもすでに、『言葉』は“呪”なんです。だから『言葉』を発した瞬間に、それは事実じゃないもの、つまり『概念』に変換されちゃうんです。そして『言葉』は、頭でももう発せることができて。“愛”って思ってしまえば、それはもう“呪”にかかっているわけなんです」

夢枕 「脳の中で『言葉』があれば、発音しなくてもいいの」

佐藤 「そうそう。脳に“呪”をかけただけで」

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