ゼンデイヤ、ジェニファー・ロペス…難題ドレスコード“時間の庭”を完璧に解釈した、メットガラで輝いたベストドレッサーたち
ニューヨークの “5月最初の月曜日”が意味するもの。それは、春の訪れとメットガラの開催!メトロポリタン美術館(通称メット)のコスチューム・インスティテュートが、米現地時間5月6日夜、毎年恒例のガラを主催した。ガラは同部門運営のためのファンドレイジングであり、特別展の開幕を祝う、ファッションのアカデミー賞とも呼ばれる祭典。2024年の展示は、「Sleeping Beauties:Reawakening Fashion(眠れる美への追憶――ファッションがふたたび目覚めるとき)」。17~21世紀の作品まで400年に及ぶファッションの歴史を辿りながら、その繊細さや古さのため、二度と身に着けることができないピースたちに焦点をあてることでいまへ甦らせる。
そのテーマから生まれたドレスコードは、「The Garden of Time(時間の庭)」。インスピレーションとなったのは、J・G・バラードが1962年に発表した同名の短編小説で、デザイナーと職人たちが情熱を込めたテキスタイルなどを通して、自然界の魅力や人類との関係性、創造と破壊の循環を表現する。様々な解釈ができるドレスコードだが、さすが!と唸らせたベストドレッサーたちを紹介する。
ビューティフルなホストたち!
圧巻のルックを披露したのは、今年の共同ホストを務めたゼンデイヤ。なんと一晩に3ルックで登場した。レッド(今年はガーデンがモチーフの白と緑色)カーペットで2度のお色直し。ガラのイベントが始まったあとも着替えたのだが、そのいずれも絶賛の嵐!最初のルックは、ジョン・ガリアーノによるメゾン・マルジェラ。1999年のディオールのドレスをベースにカスタムされたものだそう。ドレスコードのインスピレーションになったバラードの小説は、ディストピアを描いているため、ゴシックにまとめたカラーパレットやヘアメイクも、ドレスコードの芯をついている。
2ルック目も、クリエイターはジョン・ガリアーノだが、こちらはジバンシィ時代のもので、1996年のヴィンテージだ。こちらもブラックでクールさは残しつつ、フラワーブーケをヘッドピースとして鮮やかに飾った。ここではヘアメイクも、ピンクやオレンジを多用して青春や繁栄を表現した。パーティーでは、アクセサリーもヘアメイクも最小限にまとめたヌーディーなVネックのドレスで、自分らしさを演出。ここ数年を振り返っても、最も見事なホストだったのでは。
アラフィフのスター、ジェニファー・ロペスも、今年の共同ホストのうちのひとり。余裕もオーラもありまくる、見事なルックで来場した。ラインストーンとシルバーパールが散りばめられたシースルーのドレスは、ダニエル・ローズベリーによるスキャパレリのオートクチュール。ストラップレスのドレスは、胸元に彫刻のようなドラマティックなデザインが施されていて、ジェイ・ローの女神感を一層強くした。同じく胸元にはそのデザインに負けないダイナミックなダイヤモンドの鳥のネックレスが光り、自然への敬意を表している。ガウンに250万ものビーズを刺繍するのに、800時間を有したそう。今年のメットガラの正解のようなルック!
センスがよい。それに尽きる。
同じく50代の理想の着こなしをマスターしていて、代表作のキャリー・ブラッドショーを地でいくようなサラ・ジェシカ・パーカーもすごくよかった。腰から広がったリチャード・クインのドレスは、鳥かごから着想を得ているそうで、ハンドカットのレースの層にビジューが連なる二重構造。コスチューム・デザイナーのモリー・ロジャーズとの出会いがあったからこそ、とあるインタビューで答えているが、やはりアクセサリー使いが実に上手。品位のあるヘッドピース、上品だけど遊び心のある長いパールネックレス、ドレス同様のビジューとレースでシューズごと包み、足元を飾った。非の打ち所がないパーフェクトなスタイリング!
●テイラー・ラッセル
共同主催者である『VOGUE』誌のアナ・ウィンター編集長が、昨季のヨーロッパファッションウィーク中に、珍しくフロントロウで声をかけ、テイラー・ラッセルの格好をほめていたことから、間違いなく今年のメットガラに招待される!と話題になっていた。予想通り、そして期待通りのすばらしいコーディネートで現れ、華々しいメットガラデビューを果たした。今年のメット特別展の協賛も務めるジョナサン・アンダーソンのミューズであるラッセルが選んだのは、もちろんアンダーソンによるロエベ。グローバルアンバサダーに就任した2023年の、コレクション作成の際に編み出された特別な技法で型をとった、木のマネキンのようなハイネックのコルセットで上半身を包んだ。優れた才能同士で生まれるクリエイティブなコラボレーションは、こんなにも見ていて楽しい!
ミューズたちの存在感。
歴史的な価値があるものの忘れ去られつつあったアイテムを現代へ甦らせる、というメット特別展のテーマを体現したのは、ニコール・キッドマン。バレンシアガの創設者、クリストバル・バレンシアガによるクラシックで優美なボールガウンは、もともとは同ブランドの1951年春コレクションで発表されたもの。だが、なによりこのボールガウンがアイコニックなのは、1951年4月号の『ハーパス・バザー』誌内で、ファッションとアートフォトの巨匠、リチャード・アヴェドンの撮影によっておさめられた1枚があまりにも有名だから。キッドマンがこのボールガウンと出会えたのも、この写真を見つけたからだそう。とあるインタビューで、「リチャード・アヴェドンと仕事するのが夢だった。タイミングが合わず、その時は実現しなかったけれど、いま、その機会が甦ったことがうれしい」と答えながら、このドレスを着こなすキッドマンは、時を超えた美しさをあますことなく表現した。
●エリザベス・デビッキ
どんなにファッションピースがすばらしくとも、やはり着こなせるか、着られてしまうか、は身に纏う者に委ねられる。エリザベス・デビッキのドレスは一見シンプルだからこそ、着こなすことは難しい。デビッキのスタイリストによると、このマリア・グラツィア・キウリによるディオールのドレスを最大限に活かすため、1935年の映画『真夏の夜の夢』でティターニア役を演じたアニータ・ルイーズをオマージュしたそう。もうひとつ特筆すべき点は、ヘアスタイリスト、ジェームス・ペシスによる膝まで伸びるスーパーロングなヘア。ペシスは、小松菜奈が日本人初のシャネルのキャンペーンモデルとなった時のプロジェクトでもヘアを担当するなど、特にウィッグ使いに定評のあるヘアスタイリスト。そのヘアには、伝説的な帽子ブランド創設者のスティーブン・ジョーンズのヘッドピースを添えた。(ちなみに、シンガーのロザリアやゼンデイヤのマルジャラ着用時のヘッドピースも彼が担当している。)デビッキの本来もつ美しさをどの側面からも引き立たせていて、好印象!