ジャッキー・チェン、来日中に語ったファンのためできる“ただ一つ”のこと「1年に1本作品を撮って、皆さんにお見せする」
「ジャッキー・チェンは “アクションスター”であり“ヒーロー”である以前に、しっかりとした演技をされる俳優」(ヤン)
――今作において、ジャッキーさん演じるルオの家というのは、「馬との生活の場」「再会した親子の交流の場」、そして「アクションの舞台」として、とても重要な役目を果たしていると思います。このセットを作り上げるにあたってはどのようなこだわりがあったのでしょうか?
ヤン「おっしゃるとおり、あのセットはとても重要な存在でした。ただ、落ちぶれたスタントマンであるルオがなぜこんな広いところに住むことができるのか?これは映画として見せるにあたっては、合理的に観客の皆さんに納得してもらう必要があると思っていました。そこで、一生懸命考えた結果、落ちぶれたとは言え、かつてルオは大スターだったわけで、その彼が所属していた会社も撮影のセットやスタジオを持っていて、いまは彼が住んでいてもおかしくはないだろうということにしました。そこに唯一の友達である馬を連れてきて暮らすわけですが、生活するだけではなく、やっぱりかつて自分が輝いていた時代を懐かしく思ったりするものも必要だろうし、以前撮影現場にあったいろんな道具や撮影用のワイヤーとかを全部残してあって。それが観客の目に触れることで、『昔はこうだったよね』と思える。彼にとってはそういう環境が必要なのだと考えてセットを作り、撮影をしました」
ジャッキー「もし、こんな家があったら僕はすごくうれしいですね。このセットのアイデアや、あるいはどういう風に作るかというのは、基本的に監督が考えています。僕が撮影前に現場を見に行った時は、セットが8割くらい出来上がっていて、見た感じはとてもいいと思ったんですが、一つ問題がありました。それは、『誰が来てもとても快適に暮らすことができそう』ということ。そこで僕のほうからは、ルオという元スタントマンが暮らすという部分で、意見を出して手を入れてもらいました」
――「アクションの舞台」となることも考えてセットが作られていますね。アクション面においてどのようにこだわって作られましたか?
ヤン「ジャッキー・チェンのスタントチームがそこでアクションするわけですから、セット自体はとても頑丈なものでないといけない。私がセット作りで最初に出した条件は、激しいアクションをしても壊れないように頑丈にできていることでした。結果、木造のセットとしてはとても頑丈で、壊すことも難しいものになりました。いまもそのまま残っているんです」
ジャッキー「僕の場合、まずセットを見に行って、『この空間のこの場所で、どんなアクションができるのか?』というのを研究するんです。今作のセットは事前の準備がよくできていたので、撮影本番の時もすごくラクでしたね」
――『ライド・オン』の制作にあたって、ヤン監督とジャッキーさんの間ではどのようなやり取りがあったのでしょうか?
ジャッキー「僕のほうからは大きな注文などをしませんでした。『ライド・オン』は、監督が脚本も書いているので、ラリー監督の映画ですからね。アクションところだけは、監督から『おまかせしますね』と唯一言われました。
ジャッキー・チェンと言えば代表作は『プロジェクトA』みたいに言われることが多いんですが、僕としてはそこから外れたいといつも思っているんです。映画もアクションだけではおもしろくないと思っているので、そういったアクション中心の映画とはまったく違うジャッキー・チェンを皆さんにお見せしたいと思って撮影には臨んでいます。いままでと違うジャッキー・チェンを撮ってくれて、僕を変えてくれるならば、新人の監督でもまったく問題ないと思っています。そういう意味では『ライド・オン』は、ラリー監督が新しい僕を撮ってくれたと満足しています」
ヤン「唯一のおまかせとおっしゃっていますが、当然ながら現場ではジャッキーといろんな交流があり、意見や提案もいただきました。例えば、ルオが住んでいる家の中にあった金庫ですが、そこに入れる貴重品はジャッキーのアイデアです。また、馬のチートゥが跪くシーンは脚本にはなかったんですが、こうした動きをさせたほうが馬の感情が伝わってルオとの交流を描くことができるだろうという提案を受けました。人物描写についてもいろんな話がありました。それは『こういうふうにすれば僕が格好よく見えるよ』といった話では一切なく、演じる役柄や人物像について、いろいろと話をしていただきました。
ジャッキー・チェンという人物は、我々が見てきたなかでは、“アクションスター”であり、“ヒーロー”ですが、それ以前にしっかりとした演技をされる俳優なんです。今作でのルオという役柄は、以前はスターだったけど、いまは落ちぶれて人生のどん底にいる人物です。そのどん底を、当初はあまりみじめに描かないほうがいいんじゃないかと思っていました。でも、ジャッキーからいろんなアドバイスをもらうことで、自信を持ってルオという人物の“現在”を描くことができました。世の中にはルオのように、かつては売れっ子だったのに落ちぶれてしまい、世の中に忘れられている人物が実際にいます。だから、そうした部分もしっかり描かないと、観客にかつてのスターが落ちぶれていることを信じてもらうことができない。ジャッキーからのそういう提案もあったからこそ、丁寧に描くことができましたし、結果的にすごくよかったと思っています」