マイケル・マン監督が語る、映画づくりの真髄。30年越しの渾身作で捧げた“フェラーリ”への多大なリスペクト

インタビュー

マイケル・マン監督が語る、映画づくりの真髄。30年越しの渾身作で捧げた“フェラーリ”への多大なリスペクト

「観客の五感や感性に働きかける映画づくりを」

現在81歳、『フェラーリ』の撮影当時79歳だったマン監督。これまで手掛けてきたあらゆる作品で独自の美学を貫いてきた彼自身も、フェラーリ社と同じように常に探求を続け、クリエイティブにすべてを注ぎ込んできた男である。今作においては、優れた2人の“アーティスト”とのコラボレーションが作品づくりに欠かせなかったという。まず一人目は、主人公のエンツォを演じたアダム・ドライバーだ。

フェラーリの創始者エンツォ役を演じたのはアダム・ドライバー
フェラーリの創始者エンツォ役を演じたのはアダム・ドライバー[c] 2023 MOTO PICTURES, LLC. STX FINANCING, LLC. ALL RIGHTS RESERVED.

「スター・ウォーズ」シリーズで世界的注目を集めたドライバーのフィルモグラフィーを見てみると、彼がこれまで組んできた監督たちの錚々たる顔ぶれに驚かずにはいられない。クリント・イーストウッド、スティーヴン・スピルバーグ、マーティン・スコセッシ、リドリー・スコット、ジム・ジャームッシュにレオス・カラックス、そしてフランシス・フォード・コッポラ。ここに名を連ねることになったマン監督は「多くの監督たちが彼と仕事をしたいと思うのも当然でしょう。彼は本物の俳優であり、真のアーティストなのです」と手放しで絶賛する。

「人柄もよくて洗練されていて、一緒に仕事をすると満足できる監督や俳優はたくさんいます。でも彼はそれだけではなく、芸術的な獰猛さを持っている。自分を限界以上のところまで追い込み絶対に諦めないこと。あらゆるシーンで、その瞬間その瞬間をエンツォ・フェラーリとして生きていること。そして、もしうまくいかなかった時に、自分のせいなのではないかと考えてしまうところ。仕事に対する姿勢ややり方が私とよく似ているとお互いに気づいてからは、とてもすばらしい時間を過ごすことができたと思っています」。

『フェラーリ』は7月5日(金)より公開
『フェラーリ』は7月5日(金)より公開[c] 2023 MOTO PICTURES, LLC. STX FINANCING, LLC. ALL RIGHTS RESERVED.

もう一人のアーティストは、撮影監督を務めたエリック・メッサーシュミットだ。近年のデヴィッド・フィンチャー作品で撮影監督を務めているメッサーシュミットは、『Mank/マンク』(20)でアカデミー賞撮影賞を受賞。マン監督は同作を観たことがきっかけで、彼を起用すると決めたという。「ここ最近の映画を観ていて思うのは、照明ではなくただのイルミネーションのような愚かな照明設計が頻繁にされているということです。だからこそ、エリックのようなアグレッシブな照明がこの映画には必要不可欠でした」。

「また本作の照明の設計は、カラヴァッジオの絵画を意識していました。まるで光自体が生きているもののように射し込み、肩に触れてから手の辺りに落ち、顔を照らさないこともある。部屋に入ってきた人物のために光を作るのではなく、部屋にすでに照明が出来上がっているところに人が入ってくるようなイメージです。感情を表現するドラマチックなものでありながら、どこか殺風景でもある。そうした伝統的ではない光の使い方を目指したのです」と、マン監督は本作の根幹となる画面づくりへのこだわりを明かす。


8年ぶりの長編監督作『フェラーリ』がついに公開を迎えるマイケル・マン監督
8年ぶりの長編監督作『フェラーリ』がついに公開を迎えるマイケル・マン監督photo credit Lorenzo Sisti

そして、「私は以前からハリウッドの慣例的な映画づくりには反発し、ヨーロッパの映画から影響を受けてきました。自分が映画作家として持ちうるすべてを使って表現し、観客のすべての五感や感性に働きかけるものをデザインしていきたいという思いから映画をつくっています。うまくいかないこともありますが、今回のようにほかと違った形で成立する作品はとてもワクワクするものです。自分のこれまでの作品を振り返っても、『フェラーリ』はまったく異なる映画になっています」と、映画作家としての進化をアピールした。

取材・文/久保田 和馬

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