Kホラーに現れた新たな才能。“睡眠”をめぐる夫婦の恐怖を描く『スリープ』ユ・ジェソン監督インタビュー

インタビュー

Kホラーに現れた新たな才能。“睡眠”をめぐる夫婦の恐怖を描く『スリープ』ユ・ジェソン監督インタビュー

実現した“奇跡のキャスティング”。イ・ソンギュンとチョン・ユミは「演技スタイルの異なる天才俳優」

スリープ』はアパートの一室で繰り広げられる、ミニマムだからこそ抑制の効いた魅力を持つホラーだ。キャストもそれほど多くなく、少数精鋭の名優を揃えた。とりわけ主演のイ・ソンギュンチョン・ユミについて、ユ・ジェソン監督は「奇跡のキャスティングでした」と笑みを浮かべる。韓国映画ファンならご存じの通り、イ・ソンギュンとチョン・ユミにはホン・サンス監督の『教授とわたし、そして映画』(12)、『ソニはご機嫌ななめ』(14)で共演経験がある。その際、2人が「いつか商業映画でまた会おう」という約束を交わしたという話を、ユ・ジェソン監督はあとから聞かされたという。『スリープ』が図らずも2人に再会のチャンスを与えたのだ。

長編デビューの現場で緊張と一抹の不安を感じていた監督をサポートしたイ・ソンギュンとチョン・ユミ
長編デビューの現場で緊張と一抹の不安を感じていた監督をサポートしたイ・ソンギュンとチョン・ユミ[c]2023 SOLAIRE PARTNERS LLC & LOTTE ENTERTAINMENT & LEWIS PICTURES ALL Rights Reserved.

“奇跡のキャスティング”が叶ったユ・ジェソン監督はさらに、撮影現場で俳優として全く異なるスタイルで最高の演技を見せる2人に感動した。

「イ・ソンギュンさんの場合は、撮影現場に来た時点ですでにヒョンスというキャラクターとして完成されていました。毎朝、撮影現場に来て脚本を見ると、すごく緻密に研究されて書き込んだ跡があるんですよね。それで私のところへ来て、『ヒョンスはこういうセリフを言うんじゃないですかね』とか、『この時の感情は、妻を苛立たせるというより少し慰めようとしているんじゃないでしょうか』と、いろいろと提案をしてくるんです。監督である私よりも、イ・ソンギュンさんのほうがキャラクターをよく理解している感じでした」。

テイクを何度重ねても“ヒョンス”というキャラクターをぶれずに演じ切ったイ・ソンギュン
テイクを何度重ねても“ヒョンス”というキャラクターをぶれずに演じ切ったイ・ソンギュン[c]2023 SOLAIRE PARTNERS LLC & LOTTE ENTERTAINMENT & LEWIS PICTURES ALL Rights Reserved.

「チョン・ユミさんは撮影当日に来ると、『このシーンはどんなシーンですか?どういう意図ですか?全部教えてください』と質問してくるんです。もちろん、チョン・ユミさんもご自身でキャラクターを解釈されています。それでも、私が求めていたキャラクター像やディレクションを優先してくださいました。私が最初から最後までキャラクターの情報を入力すると、スーパーコンピューターみたいに、好きなように演じてくれるんです。イ・ソンギュンさんもチョン・ユミさんも、全く異なるセンスを持つ天才でしたね」。

ユ・ジェソン監督を感動させたチョン・ユミのプロフェッショナルな姿勢
ユ・ジェソン監督を感動させたチョン・ユミのプロフェッショナルな姿勢[c]2023 SOLAIRE PARTNERS LLC & LOTTE ENTERTAINMENT & LEWIS PICTURES ALL Rights Reserved.


『スリープ』に流れる、娯楽的なジャンルムービーでありながらもアーティスティックなムードは、これまで韓国映画を観ていなかった新しい観客に訴えかけるものがある。それもそのはず、ユ・ジェソン監督が『スリープ』への影響を与えた作品として挙げた作品が、スタンリー・キューブリック監督の『シャイニング』(80)やロマン・ポランスキー監督『ローズマリーの赤ちゃん』(69)、黒沢清監督『CURE』(97)など、映画史に残る傑作ホラーの数々だからだ。

「特に黒澤監督の『CURE』には、すごく影響を受けたんです。撮影中もポストプロダクション中も、“このシーンは『CURE』みたいな感じで…”とかずっと考えていました」。

多くの新人監督にとって、プレッシャーがかかるのが第2作目だと言われている。ユ・ジェソン監督は「すでにたくさんのアイディアがある」と目を輝かせる。

「一つは『スリープ』と似たようなミステリー・スリラーで、ちょっとスケールの大きい映画です。もう1つは、自分なりのロマンチック・コメディーの構想。観客として一番好きなのはロマンチック・コメディーなので、そういうジャンルの映画を作るのが夢なんですよね。でも実はいま、興味を持ってくれるプロダクションがなくて…みんなに『ミステリー・スリラーをやれ!』と言われるんです(苦笑)」。

取材・文/荒井 南


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