映画『ルックバック』徹底レビュー!「悔しみノート」の梨うまいが、時を経てより多くの人に刺さる物語となった理由を熱く語る

コラム

映画『ルックバック』徹底レビュー!「悔しみノート」の梨うまいが、時を経てより多くの人に刺さる物語となった理由を熱く語る

「チェンソーマン」で知られる藤本タツキの同名漫画を、『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:破』(09)、『風立ちぬ』(13)などに主要スタッフとして携わった押山清高が監督、脚本、キャラクターデザインを務め劇場アニメ化した『ルックバック』(公開中)。学年新聞で4コマ漫画を連載し、クラスでもてはやされている小学4年生の藤野(河合優実)は、学年新聞に掲載された不登校の同級生、京本(吉田美月喜)の4コマ漫画の画力の高さに衝撃を受ける。そこから画力を上げるためすべてを投げうって絵を描き続ける藤野だったが、京本との差は埋まることはなく、やがて漫画を描くことを諦めてしまう…。しかし卒業の日、卒業証書を届けに行った藤野は、そこで京本から「ずっとファンだった」と告げられる。

今回、TBSラジオ「ジェーン・スー 生活は踊る」のお悩み相談コーナーへの投稿をきっかけに、あらゆるエンタテインメントに対する羨望にも似た “悔しい気持ち”を赤裸々に綴り、話題を呼んだエッセイ本「悔しみノート」の著者、梨うまいがコラムを寄稿!漫画「ルックバック」を読んだ時に受けた衝撃やその後の修正騒動、時を経て劇場アニメとなった本作を観て感じた当時との受け取り方の変化などについて、独自の目線で綴ってもらった。

※本記事は、ストーリーの核心に触れる記述を含みます。未見の方はご注意ください。

「ルックバック」はそこだけで語っていい漫画じゃないはずだったんだ

「ルックバック」とその関連ワードがTwitterのトレンドを賑わせた2021年7月19日。「すげえ」「圧巻」「怪作」「とにかく読んでみて!」当時のインターネットの浮かれぶりは、今思えば藤野が描いた4コマ漫画をクラスメイトがもてはやすシーンに似ている。私も多分に漏れずネットの沸きように感化されて少年ジャンプ+のアプリを即インストールし、「ルックバック」を読み、「ねえアレ見た!?」と評論家気取りでこの作品がいかにすごいかを美容院のお姉さんにベラベラ喋りまくった。美容院のお姉さん、いつもすみません。

そのあと、一部のシーンが修正された。多くの人の目に触れたぶん、多くの議論を呼んだからだ。それが良かったとか、良くなかったとかって話がしたいんじゃなくて、修正箇所や修正に至った理由だけにスポットが当たりすぎたのがなんというか、無念だった。ワイドショーで取り上げられているのも観て、腹が立った。そこだけで語っていい作品じゃないはずだったんだ。

【写真を見る】人気エッセイの著者がネタバレありで映画『ルックバック』を熱くレビュー!
【写真を見る】人気エッセイの著者がネタバレありで映画『ルックバック』を熱くレビュー![c] 藤本タツキ/集英社 [c] 2024「ルックバック」製作委員会

2024年6月28日、スクリーンで映画『ルックバック』が公開される。この文章を書いている今の私から見て、少し先の未来。これは再び議論を呼ぶだろうか?「ここは何々のオマージュで」「これはこういうミーニングで」なんていう話はあちこちでされるんだろう。だけど今、少なくとも私は、あのときよりも距離をもって冷静に、この物語そのものを受け取れた気がしている。それはきっと原作を極力そのままにアニメーションへと落とし込んだ制作の丁寧さによるものでもあり、私たちがあの日から今日まで、痛みを抱えながら過ごしてきた年月の長さがもたらすものでもある。こんなふうに受け取れるところまで、歩いてきたんだ。映画『ルックバック』の鑑賞体験は、たぶん誰にとっても自身の人生を振り返るものになる。


藤本タツキ作品といえば、一大ヒットとなり現在も連載中の「チェンソーマン」や完結済みである「ファイアパンチ」にも共通して見られる、ダークな世界観と容赦ないスプラッタ描写、一周まわって洒脱なお下劣ユーモアが中毒的魅力だ。様々な映画作品のオマージュが散見されるところも映画ファンにはたまらない。簡単に言えば、めっちゃタランティーノっぽい。その点、「ルックバック」は異なる。自分の才能に絶対の自信を持つ田舎のイキリ小学生藤野と、不登校で引きこもりの京本が出会い、漫画制作に打ち込んでいくリアルベースのストーリーで、頭からチェンソーは生えないし、生首ひとつ転がらない。しかし、現実的な話だからこそ残酷さが際立つ。悲しみが深々と刺さってなかなか抜けない。悲劇には、生まれたての赤子だろうと神様レベルの聖人だろうと意味もなく巻き込まれる。意味がないから答えもない、煮え切らないから余計に苦しい。この世の残酷さはデフォなので、文句をいう相手もいない。“この世の運営サイド”に文句言えたらいいのに。詫び石寄越せ!

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