ソン・ジュンギが新鋭俳優とぶつかり合う!現代社会の悲惨をえぐる韓国ノワール『このろくでもない世界で』
地獄のような現実でもがく者たちを生々しく描く『このろくでもない世界で』
『このろくでもない世界で』は、近年一大ジャンルとして確立した韓国ノワールのニューフェイスとして興味深いものがある。そもそもノワールとは「Noir」、つまりフランス語で「黒」という意味。 暗黒小説やフィルム・ノワールと言えば、 人間の悪意や差別、暴力など闇社会を犯罪者の立場から描く小説や映画を指すことが多いが、特に映画の場合はかなり広範囲の世界観を含む。犯罪組織にいる者ではなくとも、主人公が抜き差しならない事情や悲劇的な境遇、復讐のために犯罪に手を染めるストーリーも韓国映画ではノワールとされる。
韓国ノワールは、社会への批判や問題提起なども盛り込みつつも過激なほど描写が生々しい。その根底には、かつて指摘された“恨”の思想があるのだろう。自分自身が受けた暴力や屈辱、罪の重さを、激しい感情と痛みで相手に思い知らせる。そして、同じように傷ついた者同士が連帯する。もちろん本作で暴力の応酬が繰り返されるように、それが道義的に間違った手段の場合もある。ヨンギュが自分に似た傷を持っていることに響き合うというのも、韓国ノワールの系譜に連なる描写だ。
『このろくでもない世界で』のオープニングは、ヨンギュがハヤンをいじめた同級生を殴るシーンだ。血まみれの石を水たまりに投げると、泥で淀んだ波紋の中からタイトルが浮かび上がる。地獄のような現実から逃れるために危険な選択を繰り返すことで、さらに深い泥沼へ堕ちていくキャラクターが、見る者も緊迫した緊張感に引きずり込む。その熱演を、ぜひスクリーンで堪能してほしい。
文/荒井 南
作品情報へ