近未来なのに懐かしい。日本カルチャーへのリスペクトが詰まったA24製作「サニー」をレビュー! - 2ページ目|最新の映画ニュースならMOVIE WALKER PRESS
近未来なのに懐かしい。日本カルチャーへのリスペクトが詰まったA24製作「サニー」をレビュー!

コラム

近未来なのに懐かしい。日本カルチャーへのリスペクトが詰まったA24製作「サニー」をレビュー!

1960~70年代の音楽が日本人の感性にアピール

 【写真を見る】A24製作のドラマ「サニー」をレビュー。レトロフューチャーな日本の風景が新鮮!
【写真を見る】A24製作のドラマ「サニー」をレビュー。レトロフューチャーな日本の風景が新鮮!画像提供 Apple TV+

妙な親近感と言えば「音楽」かもしれない。まず毎回オープニングで流れる主題歌が、1970年にリリースされた渥美マリの「好きよ愛して」。知る人ぞ知る曲だが、ソウル・バス(ヒッチコック作品などのオープニングタイトルで知られる伝説のデザイナー)風のタイトルクレジットと見事にマッチして超おしゃれ。劇中では「東京流れ者」「子連れ狼」といった有名な曲も使われるうえ、コンビニやラジオで流れるのも、1960〜70年代の昭和歌謡(弘田三枝子、園まりなど)という徹底ぶり。近未来なのに懐かしいという作りで、日本人の感性にアピールしてくる。

シンガーソングライターのアニー・ザ・クラムジーが、スージーと行動を共にするミクシー役で出演
シンガーソングライターのアニー・ザ・クラムジーが、スージーと行動を共にするミクシー役で出演画像提供 Apple TV+

近未来なのに懐かしい。つまりレトロフューチャーという意味で、この「サニー」で目が離せなくなるのは、プロダクションデザインだろう。サニーをはじめとしたホームボットは、現実でも生産されたASIMOに近いが、顔の表情変化が絵文字のようで可愛い。この“絵文字顔”は、実際にサニー役を演じた俳優(ジョアンナ・ソトムラ)の表情を映像化と聞いて、さらにびっくり!また、個人の端末はスマートフォンと少しだけ違ったデザインで、こちらも妙にキュート。そしてイヤホンのように耳に着けたデバイスでは、外国語が瞬時に翻訳されて会話ができる。スージーが日本に10年も住んでいて日本語があまり話せない設定も、このデバイスのおかげだし、英語と日本語のスムーズな会話は作品としても観やすい。うまいアイデアだ。

絵文字のようなサニーの表情がキュート!
絵文字のようなサニーの表情がキュート!画像提供 Apple TV+

マサの勤務先でホームボットを生産するハイテク企業のイマテックの外観と内観は、長い歴史をもつ国立京都国際会館で撮影が行われ、このあたりもレトロフューチャーな感じを増幅。スージーとマサの京都の自宅は、和と洋が美しく融合し、洗練されたインテリアを隅々まで確認したくなる。海外の目線で描く日本が舞台の作品は、『キル・ビル』のタランティーノのようなオタク表現は別にして、必ずどこかリアリティの欠如、違和感を伴うもの。しかしこの「サニー」は、違和感すら“おしゃれ”に変換しているようで、観ていて楽しい。これが作り手のねらいどおりだったら、感心するしかない。

 スージーの自宅のプロダクションデザインにも注目
スージーの自宅のプロダクションデザインにも注目画像提供 Apple TV+

イマテック社の真実、マサのダークサイド、血なまぐさい事件…と、次々と出てくる不穏な要素。そして出てくる人物のほとんどが、主人公スージーに対してなにか良からぬことを画策しているような怪しさで、観ているこちらの心をつねにかき乱す「サニー」。失意のスージーが最初にロボットのサニーを受け取ったとき、あからさまな混乱と違和感を表明するも、一緒に生活するうちに絆が深まっていったが、それと似たような感覚で、「サニー」というドラマは、観る者を挑発しながら、目を離したくなくなるおもしろさで繋ぎ止める“魔力”を持っているような気がする。最終の10話で、おそらく想像を超えた結末が用意されているに違いないと、第1話の段階で確信できるのではないか。


文/斉藤博昭

作品情報へ